第8話 酒

「.....何を話していたの」


女の子の部屋とは思えない、シンプル且つぬいぐるみやらファンシーな物が無い部屋に行くと、羽島が俺に早速と聞いてきた。

赤飯を置かせて欲しいのだが。

重いから。


俺は羽島を見ながら、苦笑する。

羽島はジト目で俺を見て、少し心配そうな顔をする。

不安そうな顔だ。


「.....世間話みたいなやつだ。何でそんなに心配な顔を?」


「.....フン」


分からないが.....まさか俺が女に取られる事を不安がって?

それだったらかなり.....嬉しいんだけど。

でも羽島になぁ。


「.....あの?お二人さんや。仲良くは良いが、私を忘れるなかれ?」


「あ.....水谷さん居たんですね」


「私は何時でも居るからね!何?私にイチャイチャを見せつけて羨ましいだろとでも!?婚期を舐めるなよ!?」


「.....違いますから。早く座って下さい」


羽島があれこれ言う水谷さんを宥めながら誘導する。

そして床の座布団に腰掛けた。

俺も少し控えめに失礼をして腰掛ける。

目の前に赤飯や美味しそうな料理が並ぶ。


結局、成り行きで赤飯になってしまった.....。

俺は少し顔を赤くしながら、顔を上げてみる。

羽島も少し赤くなっていた。

夕日のせいかもしれないけど。


「じゃあ!いっただきまーす!!!かー!うっめぇ!ハーハッハ!」


缶ビールを何時の間にか飲みながら水谷さんが俺達を見てくる。

おいおい、ビールって何やってんだこの人。

自室に鍵掛けなくて良いのか。


「.....何時もこんな感じの人だから問題は無い」


「.....そ、そうか.....」


「赤飯食えよお前ら!うっめぇぞ私の赤飯は!ハッハッハ!」


赤飯って本来は婚約の時に用意するもんじゃねーの?

まさか結婚まで至るのか?俺は.....羽島と?

早すぎる.....!?

混乱しながら、赤飯を食べてみる。


そして、暫くしていると羽島が側に有った氷水を飲んだ。

どうやら味もさぞかし、喉が渇いた様だ。


「.....辛いから.....」


「ンゴー!」


いびき.....がうるさいとポツリ呟く、羽島。

俺は直ぐに側の肌を露出しまくっている人を見ながら愕然とした。

この人、何やってんだ?

未成年を放ったらかし.....で。


「寝たぞ。オイ、水谷さん.....」


「そうだねぇ.....ヒック」


「.....ヒック?」


何か、しゃっくりの様な声を出した羽島。

よく見ると今度はかなり分かる様に赤くなっている。

目がとろ〜んとしている。

そして俺を見て、うっとりしている.....?


「.....え?」


「何だか良い気分.....良い気分!」


「.....ちょ、羽島?」


なんか、羽島の様子が?

直ぐに横を見ると、焼酎の瓶が転がっている。

いや、正確には水谷さんの手から転がり落ちた。


で、氷水。

側に有った.....まさか。

何時の間にか焼酎杯を作っておいて置いたとか?

自分が飲む為に。


で、それを羽島が間違えて飲んだ.....ってのは考えられないか?

俺は赤面でとろ〜んとしている羽島を見る。

接近してきていた。


「.....ちょっと待ってくれ.....!?」


「えへへ。ねぇ三朗くん。.....キスしよ」


「ちょ、ちょ、ちょっとタンマ!」


俺はポケーッとしたキスしようとしてくる羽島の口を押さえた。

そして布団に横にさせた。

キスってのは駄目だ。


大切な人とするものだ、それは。

うん、非常に惜しいが。


「.....ねぇ。三朗くん.....」


「.....すまない。寝てくれ。今の羽島とは話が出来ない。俺は.....」


「.....私ね.....感情が無いって言われるの。みんなに」


「.....?」


今の状況を察してなのかどうなのか分からないが。

布団を被せて羽島を寝かしつけていると、その様に羽島はポツリと話した。

そして羽島は天井を見ながら、言う。

かなりゆっくりと続けた。


「.....感情って何だと思う?私、感情.....全く分からないから.....どうしたら良いの」


「.....」


その言葉を受けてから。

ふと.....俺は.....水谷さんの言葉を思い出した。

そして.....羽島を見る。


(羽島ちゃんは感情が死んだんだ)


「.....俺は今の羽島でも良いと思う。無理に変わろうとしなくても良いと思う。だけど、羽島が.....変わりたいなら.....俺は協力するから。一緒に探そう。感情って宝を」


「.....さがしてくれる?」


「.....ああ」


「やった!大好き!じゃあ一緒に寝よ.....!」


バサァ!


一瞬の事でした。

目の前に羽島の顔が.....!

布団の中に巻き添えになった。

ちょ、一体どうしたら良いんだ!?これは!


「えへへ。三朗くん.....」


「.....」


汗が吹き出る。

心臓が鼓動を早くする。

ど、どうしたら.....と思っていると。

眠りから目覚めたのか水谷さんが俺達を覗き込んでいた。


「もしもし?お二人さん?ラブラブですなぁ。ハッハッハ#」


「ハッハッハじゃ無いです。元はと言えば水谷さんのせいですよ!?水谷さんが放置した焼酎ハイを羽島が飲んじゃったから!」


「え?あ。.....あらまぁ。確かに飲んでる.....まぁそういう事も有るよ。アッハッハ!」


俺は心底、心臓をバクバクさせながら羽島を見る。

羽島はグッスリと寝ていた。

酒のせいだろう。


「.....良かった.....」


(私、感情って分からない)


「.....」


俺は複雑な思いだ。

だけど、水谷さんも居る。

きっと大丈夫。


困難の先には虹が。

そんな感じで超えられる。

そう思いながら俺は布団から静かに出た。

それから、夜の中、帰宅する。


後の事を水谷さんに任せて、だ。

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