第4話 喜び

何だこの状況。

いや、まさかだろう?

ただ俺は呆然として、蝋人形の様に固まるしか無かった。


屋上にて今現在、俺は可愛らしい自分の弁当を広げている、羽島と2人きりだ。

ちょっと待ってくれ、何でこうなった?

ただ俺の心臓がバクバクバクバクしている。

あの無口で男に全く興味を持たない様な羽島だぞ?


美貌が有りながらもどんなイケメンでも落とせないあの羽島と一緒。

これは学校中でニュースになってもおかしくないし、張り出されてもおかしくない。

ましてや号外が出てもおかしくはない。

それぐらい有り得ない事だ。


「.....広げないの」


「.....あ、へ!?あ、す、すいません.....」


羽島の弁当.....羽島の.....。

思った以上に手が震えてしまう。


有り得ない事が起こり過ぎていて.....胃が痛い。

ストレスで爆発しそうだ。


俺は南無三と思いながら、弁当箱を広げる。

そして目の前の弁当をゆっくり見て俺は目を丸めた。

まさかだ。


「.....お前.....」


「.....何」


「.....ポ●モンが好きなのか?」


ヒノアラシやらイーブイやら。

そんなキャラクターであしらわれた弁当箱。

海苔が切ってご飯に貼っ付けられており。

色取り取りの食材がそれを支えている。


卵焼き、タコさんウィンナー、煮物。

更にはシャケ。

俺は羽島のそんな趣味を初めて知った。

かなり.....そう、キャラクター好きなんだって。


「.....ポ●モンは昔から好きだった」


「.....そうか.....」


羽島は目の前の自分のお弁当を黙々と食べ出す。

そして俺も箸を有難く広げて。

黙々と食べる。


側から見たらお前ら知り合い?的な感じに見える。

俺は、にへら、としてしまった。

羽島の手作り弁当とか.....。


と思っていると、羽島が卵焼きを箸で持っていた。

俺の方を見据えてくる。

猫がジッと見てくる感じで、だ。


「.....???」


「.....アーン」


「.....は、はい?」


「.....早くして」


え?あえ?え!?

羽島がもしかしてアーン!?

俺に!?嘘だろ!


「あ、アーン」


パクッと食べてみる。

かなり美味しい卵焼きであった。

所謂、ネギが入っている。

俺は気持ち悪い笑みが出そうになるのを抑えながら聞いた。


「お前、料理上手でもあったんだな」


「.....」


そこは無言だった。

俺はその事に少しだけ笑みながら。

嬉しくて心の中で踊っていた。

こんな.....幸せは久々だ。


「えと、何でアーンをしたんだ?」


「.....それ聞くの」


「.....え?駄目か?」


「.....」


羽島は答えなかった。

そのまま黙々と食べ出したのだ。

俺はしまった、聞かない方が良かったか?

と思いながら頭を抱えそうになるのを我慢して.....食べた。



教室は大騒ぎ状態であった。

何故かって、羽島が弁当を男に作ってきていた事自体が天変地異が起こるだろ、という感じだったから。

だけど、羽島はそれを無視しながらスススと音を立てない感じで椅子に腰掛けた。


俺もそんな羽島を見送る感じで見ながら椅子に腰掛ける。

その為もあって、何だぁ気の所為か。

という感じで教室の大騒ぎは纏まって行った。


だが、羽島の行動はこれだけで終わらず。

その事が有ったのは放課後だった。



「練習キツかったな」


「そうだな」


「先輩、ゴールをめっちゃ決めてかっこ良かったわ」


シャワーでさっぱりした状態で。

会話しながら歩く。

自転車を取りに行こうとしているのだが、そんな中で俺は聞くのを忘れていた事を思い出して聞いた。


「.....お前ら、どうして今日は俺をスルーして売店に行ったんだ」


「.....それは.....」


「知りたいのか?お?このリア充め」


高木と高島は顔を見合わせてジト目をして俺を睨んできた。

そしてこしょぐられて悪戯される。

んだよ、マジで意味が分からん。

俺はその様に思いながら、居ると。


「.....ん?あれ.....」


「羽島じゃね?」


な、は!?

俺は直ぐにその方向を見る。

確かに羽島が居る。

夕暮れでもう時間が遅いのに。


自転車置き場の柱を背に、本を読んでいる。

俺は呆然としていると。

高木と高島が俺の肩を掴んだ。


「.....先帰るわ」


「俺も」


「.....は、はぁ!?お前ら巫山戯んな.....!?」


と高木と高島に思っているとその大騒ぎで気が付いたのか。

羽島が本を閉じてこっちに歩いて来た。

そして俺を見据える。


「.....よ、よお。羽島」


「.....やっと来た。帰ろ」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。お前.....俺を待っていたのか!?」


「.....」


羽島は何も言わない。

そのまま歩き出す。

その背中を錆びた自転車をコキコキ動かしながら慌てて追った。

もう陽は落ちている。



「.....」


「.....」


驚いた事に羽島の家の方角は俺の家の方角と同じだった。

目の前を羽島が歩く。

その背中を追う形で俺も歩く。

お互いに言葉は無い。


「.....羽島」


「.....何」


「.....もしかして.....俺が助けた事をまだ.....お礼と思って接しているのか?だったらそれはストレスだろ。もう良いよ」


そうだ、きっと羽島は。

そんな感じで思っているから俺に接しているんだ。

俺はその様に思いながら、長い黒髪を見る。


「.....そんな訳無い。嬉しかったのに」


物凄く小さな声が聞こえたが、全く聞き取れなかった。

俺は?を浮かべながら、羽島を見る。

羽島が俺の方を見て来ていた。

俺はいきなりの事に、驚愕に身を退く。


「.....ど、どうした?」


「.....私はお礼と思って接して無い」


「.....へ?」


そして羽島は暗闇を歩いて行く。

街灯がチカチカ光る中。

俺は???浮かべながらただ呆然としていたが慌てて追い掛けた。


じゃあ何で羽島は俺を.....?

謎が深まるばかりだった。

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