この物語はフィクションです
テレビは二人の人間が感動的に結ばれるシーンを映している。
海辺で抱き合う二人。涙を誘うBGM。エンドロールが流れ、物語はゆっくりと幕を下ろした。
そして真っ黒になった画面に白文字である言葉が浮かび上がる。
「この物語はフィクションです」
普通の人はあまり気にすることはないだろう。しかしこの言葉は、今まで画面上で繰り広げられていた全てをたった一言で帳消しにしてしまうような、恐ろしい響きを伴っていることにお気づきだろうか。
「だって私、まだケンジ君のこと好きだもん!」
「この物語はフィクションです」
「犯人は・・・あなたですね」
「この物語はフィクションです」
「俺がここで頑張らなきゃ、このプロジェクトは完成しないんだ!」
「この物語はフィクションです」
「まもなくこの船はワープ空間に突入します」
「この物語はフィクションです」
「それは・・・ほんとうですか?」
「この物語はフィクションです」
「ご覧ください!この採れたてのみずみずしいお野菜!」
「この物語はフィクションです」
「続いての問題はこちら!」
「この物語はフィクションです」
「いや~、〇〇先生。この事件についてどう思われますか?」
「この物語はフィクションです」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「何やってんだ」
Aはそういうと、いきなりテレビの電源を切った。
「古い番組ばかり見やがって」
「ちょっと、思い出したくなったんだよ」
俺は真っ黒になった画面を見つめたまま答えた。
「早く行かないと、ここももうじきだめになる」
Aが急かすように言った。
「分かってるよ。今から準備する」
俺は生返事をしながら座っていた床から立ち上がった。
窓からふと外の景色が見える。少し先に広がるのは荒れ果てた町。
強力な感染力をもつウィルスGIV300が世界中でパンデミックを起こしてからもうすぐ1年が経つ。各地の主要都市を壊滅させたGIV300はゆっくりとその毒手を伸ばしながら、今なおその領土を拡大し続けていた。
感染すれば最短12時間で死亡する。治療法は無い。
生き残った俺たちにできるのは、ウィルスからできるだけ距離をとりながら、逃避行を続けることだけだった。
目の前で崩れていく文明を見てもなお、信じられない。
あれほど栄えていた人間があっという間に衰退し、過去の華やかな生活が全て、俺たちにとってただの
※この物語はフィクションです。
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