今度3つになる息子の誕生日に、象の形のじょうろをあげた。鼻の部分が注ぎ口になっているやつだ。

 象が大好きな息子はとても喜んだ。そしてそれから毎日、庭に出てじょうろで水を撒くのが日課になった。水を撒いているとき、彼はずっと歌うように口ずさんでいた。

「ぞうさんにおみず、ぞうさんにおみず」

 こういうときは、ぞうさん『で』おみず、と言うのだと何度言って聞かせても、息子は「ぞうさんにおみず」と言い続けていた。

 

 ある日、家の中で洗い物をしていると突然、家がぐわんぐわんと揺れ始めた。びっくりした私が周りを見回すと、さっきまでいたはずの息子がいないことに気付いた。

 そのとき外から、「ぞうさんにおみず、ぞうさんにおみず」という声が聞こえきた。慌てて玄関のドアを開けると、家のポーチで息子が機嫌良くじょうろを振っていた。相変わらず家は揺れ続けているのに、怖がる様子はみじんもない。

 彼は私の顔を見ると、にこっと笑って言った。

「ね、ぞうさんにおみず」

 

 私はそれまで、自分の家が象の背に立っていることに気付いていなかった。

 

 

 

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