超短編集

Black river

難癖

 あるところに一人の男がいた。

 彼は物事の粗探しをするのが大好きで、どんなことにも難癖をつけていた。

 テレビを見ては、

「あんな奴らはどうせ嘘をついているに決まってる!」と言い、

 映画を見ては、

「こんな設定は好みじゃない!不愉快だ!」と言い、

 小説を読んでは、

「こんなお涙ちょうだいみたいな話が流行るなんて世も末だ!」と言った。

 男は毎日いらいらしながら歩き回って、世の中のありとあらゆるものに対して揚げ足をとり、文句を言い続けていた。彼の物言いは日ごとにエスカレートしていった。

「あそこの店員は顔が暗い!気分が悪い!」

「俺はどう見たって一人だろ!いちいち『お一人様ですか?』なんて聞くな!」

「俺は赤が嫌いだ!赤色の服を着るんじゃない!」

「俺は子どもの声が嫌いだ!俺の家の前は通学路から外せ!」

「俺の知らない言葉を使うな!馬鹿にしているのか!」

「もっと俺のためになるように変えろ!」

「俺は!」「俺は!」「俺の!」…


 ある日突然、男はばったりと倒れそのまま息絶えてしまった。

 この物語の作者曰く、

「自分の出ている物語にまで難癖をつけ始めた男が、自分の心臓が動いている描写が無い、ということに気付いてしまったから」ということだ。

 まことに哀れな男である。

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