第25話 エマ

逢音「瞳美…」

そう口に出さずにはいられない。それほどエマは瞳美に似ていた。

エマは祭壇に駆け寄ると瞳美の遺影を抱きしめ号泣した。

「どうして、どうして私の国でこんなことに….」

日本語の発音はしっかりしている。

エマの姿は親族の涙を誘った。

泣き止んだところで、エマが逢音に視線を送った。

母親「いまちょうどエマさんの話をしようとしていたのよ。こちら瞳美の友達の篠崎逢音さん。逢音さん、さっき言いかけた瞳美の従妹のエマさんですよ。瞳美にそっくりでしょう?従妹でもこんなに似るものなのよね」

エマ「初めまして逢音さん。瞳美を看取ってくれてありがとう。」

エマは流ちょうな日本語で話した。近くで見るとますます瞳美と似ている。ただ一箇所だけ違っていた。彼女の瞳の色はグリーンだった。

逢音「こちらこそ。瞳美さんにそっくりな従妹さんに会えて、うれしい。まるで…まるで瞳美と話しているみたいで…」

逢音は泣いた。偽らざる悲しみの涙であった。

母親「エマさんはしばらくここに滞在するのよ。」

エマ「おじさん、おばさん、お世話になります」

父親「いいんだよ。私たちもエマさんがいてくれて…」

涙声になる父親。

(瞳美に生き写しのエマの存在は瞳美の両親の心の慰めになるだろう。そうだ、まだ瞳美が死んで10日も経っていないのだ)

全員そろって和やかな会食となった。

特にエマの笑顔は遺族の心を和ませた。

逢音はちょっと救われた気がした。

会食は1時間ほどでお開きになり、逢音は曽宮家を辞することにした。

エマと話がしたかったが、今日は曽宮の親族だけにしてあげよう。そう思い玄関に向かうときにエマとすれ違った。

エマ「You are Thief !」

小声でよく聞き取れなかったが、重く沈んだ声色だった。

逢音「え!?」

振り返ったがエマはスタスタとトイレに向かっていった。

母親「これ、ご両親に。お葬式の時に本当によくしていただいたから…」

高そうな菓子折りを渡された。

逢音「あ、はい。今日はありがとうございました」

母親「また。遊びに来てね。エマちゃんと友達になってくれたらうれしい」

逢音「はい。あのう…エマさんはいくつなんですか?」

母親「瞳美と同じ17歳。誕生日も同じなんですよ。まるで双子でしょ?」

逢音「・・・・」

母親「あらあら冗談よ。だって瞳美を産んだのは私ですもの。偶然よ。」

逢音「そう。そうですよね」

母親「ご両親によろしく」

逢音「失礼します」

(そうきっと偶然。瞳美が二人いるなんて…。でもエマはなんと言ったのだろう?)

逢音が自分の英語力のなさを嘆いている時、カバンの中の四神は大騒ぎしていた。


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