第22話 資格者

店主は棚の引き出しから1本のスプーンを取り出した。

店主「これが五つ目の…味覚の神の道具だよ。今所有権は私にある」

店主はスプーンの柄の部分を逢音に見せた。

そこには「Taste RiRi」という文字が刻まれていた。

(間違いない。味覚の神だ…)

逢音は身構えた。

店主「はっはっは。心配ご無用。これを今君に使うことは考えてないよ。だからといって君にすぐにあげるつもりもない」

逢音「どういうことですか?」

店主「この味覚の神の道具は非常に使いづらい。この能力が発動するのは、スプーンに口をつけた時だ。ほかの道具は瞬時にチカラを発揮できるが、これは飲食の機会がないと発揮できない」

逢音「……」

店主「私を殺せるかね?」

逢音「…できません。もう人が死ぬのは嫌です」

店主「そう。君はそういう人だ。五感の神は君にこそふさわしいのだろうね」

逢音「だったら…」

店主「早まってはいかん。もう一人、五感の神たる資格をもつ人がいるんだよ」

逢音「え!?」

店主「私はその人間にこのスプーンの所有権を委ねることにした。そして君はその人間と五感の神の主の座を争っていただきたい。つまり、君が味覚の神を手に入れるか、もう一人の人物が君の4つの神を手に入れるか…そういうゲームだ」

逢音「なぜそんな必要が…?」

店主「その人物は、私に近い考えをもっている。そしてこの能力のことも知っている。君が神の能力者であることもだ。君と似ているが根本的なところで君とは違う人間だ」

逢音「…わからない。そんな人…いないはず…」

店主「そう…いないはず。君の中ではいないことになっているはずなんだ。近いうちに君はその人物と出会うだろう。その時にその人物からスプーンの所有権を奪いたまえ。ただその人物は全力で君の四つのチカラを奪いにくるだろう。五感の能力では圧倒的に君のほうが有利だ。だが、相手は触覚の神のチカラ以外にも君にない武器を持っていることを忘れないことだ…」

逢音「どういうこと?」

店主「会えばわかることだ」

逢音「誰?誰なのその人は?!」

店主「現実と真実の違い。君は現実を理解しているが、知らない真実があるんだよ。」

逢音「……」

店主「今日はよく来てくれたね。私の店の一番のお得意様が私の…私の一族の長年の望みを叶えてくれるかもしれない。こんなにうれしいことはない。できれば君が勝者となることを祈ってるよ」

店主はそう言うと、店のドアを開けた。

店主「またいらっしゃい。完全なる五感の神として…」

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