第20話 店主の告白(1)
店主「寒かったでしょ?コーヒーでもいれよう」
逢音は「いや結構です」と言いかけてその言葉を飲み込んだ。
(味覚の神が出てくるかもしれない…飲まなければいいのだ)
逢音「すいません。いただきます」
店主がひょっとして裏の倉庫に食器を取りに行くんじゃないかと思ったが、期待は裏切られ、いつも逢音に出されるコーヒーカップと受け皿が温かいコーヒーとともに出てきた。
店主「四つの神を手に入れたようだね」
逢音「!!」
(やはり…この店主がすべての元凶だったのか…しかしなぜ?)
無言でいる逢音の返事を待たずに店主は続けた。
店主「うちの店はね、もう8代も続く老舗なんだよ。とはいってもここに店を構えたのは私の代になってからなんだが…。ここに落ち着くまでは世界中を歩き回る古物商だった。」
逢音は黙って聞いた。
店主「私が10歳の時に父から五感の神の話を聞いた。実はもともとひとつの神であったものを5つに分けたのは私の祖先、初代の古物商なんだ。ヨーロッパ中世末の15世紀には、悪魔と契約してキリスト教社会の破壊を企む背教者という新種の「魔女」の概念が生まれるとともに、最初の大規模な魔女裁判が興った。ふふふ。魔女も魔術も空想のものだったのに…人間の無知による社会不安から発生した集団ヒステリー現象なんだよあれは」
店主「コーヒーが冷めてしまうよ。飲みなさい。大丈夫。味覚の神が宿ったものじゃないよ」
逢音は心を見透かされてるようで恥ずかしかった、でもそれ以上に店主の話は興味深かった。
逢音「いただきます」
逢音はコーヒーをすすった。いつもの味であった。なにも起こらなかった。
店主「ところが、神はいたんだ。ゼウスのようなギリシャの物語上の神ではない。本当に全知全能の神がいたんだ。どこにいたと思う」
逢音「…日本?」
店主「逢音ちゃん、君は頭がいい。そのとおり日本にいた。その神は普通の人間だった。自分が全知全能の神だと知らずに普通に生きていた。」
逢音「それはいつの時代の話ですか?」
店主「今から400年以上前、歴史でいうところの戦国時代だな」
逢音「その人の魔力に気づいたのが、初代の店主?」
店主「冴えてるね。そのとおり。最初に気づいたのは私の先祖だ。その先祖と恋仲だったんだよ。つまり、神は女性だった」
店主「彼は恋人のまわりで起こる不思議な出来事を何度も目撃した。そしてこれはまずいと気づいた」
逢音「日本にキリスト教が布教しはじめたころ…」
店主「そう。彼女が日本の魔女狩りに遭うことを恐れていた。ただ気づいたときは手遅れだった。彼女は追われる身となった。追手はバテレン追放令を出した豊臣秀吉の軍。しかし能力を使うことでかろうじで生き延びていた。そして能力を使うたび彼女は覚醒していった」
逢音「ごくり(つばを飲み込む)」
店主「彼女の一挙手一頭足で、追手の軍が全滅することもあった。そのうち軍は彼女を殺すより、手に入れようと考えた。そうして利用されたのが私の先祖だ。人質とされ、彼女が軍門に下れば彼を開放することを条件とした…結果、彼女は全知全能の力で彼を開放するとともに自害したのだ」
店主は続けた。
店主「彼が開放された時に、彼の手にいつの間にかベルが握られていた。そう、今は君が主の聴覚の神ビビがその時生まれたんだよ」
店主のたばこの灰がポトリと床に落ちた。
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