第13話 園子

世間的には大晦日。

逢音は吹奏楽部の今後が気になって園子に会いたかったが、逆にロンドンでの出来事を聞かれたら返答に困るので、新学期まで会うのはやめるつもりでいた。

ところが、園子からLINEが来た。

<園子>「今から会えない?」

断る理由が見つからなかった。

<逢音>「いいよ。どこで会う?」

<園子>「逢音がよく行くアンティークショップでいい?」

<逢音>「え!なんで?話ならマックでジュース飲みながらでも…」

<園子>「まあ、そうなんだけど…買い物につきあってほしいんだ」

<逢音>「園子がアンティーク買うの?」

<園子>「まあね。プレゼントだけど…」

<逢音>「あ、そういうことか…ふふふ、了解」

<園子>「なんじゃ、その不敵な笑みは」

<逢音>「プレゼントの相手がわかってるからじゃよ。すぐ支度して行くよ」

<園子>「今度笑ったら殺す。じゃあ先に行っとくねー」

園子には、好きな男性がいた。もちろん女子高だから同じ学校の生徒ではない。

園子が好きなのは家庭教師のジョージである。

英語の家庭教師でアメリカ人である。一度だけ見たことはあるがなかなかのイケメン。

年齢は確か21歳。某有名私立大学の留学生であるとのこと。

このことを聞かされた時、腹を抱えて笑ってしまって、それ以来彼のことを園子が話すことはなかった。

(よりによって外国人とはね。結ばれない恋愛だと園子もわかってるだろうに…)

自分より頭がよくて計算高い園子が、いざ恋愛となって盲目になったことがおかしくてたまらなかったのだ。

店に着くと、ショーウィンドウを覗いている園子がいた。

逢音「寒いから中に入ってればいいのに…」

園子「うん。でもこれが気になって…」

逢音「ほう。どれどれ」

園子が観ていたのは、革の手袋だった。黒のレザー製で、手首のところのバンドに古めかしい金属の装飾物がついている。金額は12,000円。アンティークにしては安い買い物だ。

園子「先生はバイクに乗るから…」

逢音「でもさあ、バイク用ならこんなアンティークじゃなくて、バイクショップでそれ専用のほうが…」

園子「一応私も女だよ。機能だけじゃなく、おしゃれなセンス見せたいんだよ。分れ!」

逢音「ふぉっふぉっふぉっ、いじらしいのぉ~、乙女じゃのぉ~」

園子「笑ったな、殺す!」

逢音「すまんすまん。うんうんいい買い物だと思うよ」

園子「本当!?」

逢音「うん。アンティークの専門家がいうのだから間違いない」

園子「じゃあ買ってくる」

(ずっと前から目をつけていたんだろうなぁー、くっくっく、かわいいな)

逢音はあえて店には入らなかった。

(ここの店主には機会をあらためて気かねばならないことがある…)

園子が出てきた。袋包みを抱えてちょっと浮かない顔をしてる。

逢音「どしたの?」

園子「プレゼント用の包装を頼んだんだけど、ここではそういうサービスしてくれないんだって…」

逢音「あーわたしプレゼント用に買ったことないからなー。いいじゃん自分で包装すれば。100均ショップなら付き合うぜ!」

園子「うん。そうする」

逢音「せっかくだからちょっと着けてみ!」

園子「えー、使用済になっちゃう」

逢音「アンティークだから使用済は当然!」

園子「あ、そうか! じゃちょっとだけ…」

園子は手袋を取り出し自分の手にはめた。

園子「やっぱり男モノだね。私の手にはかなり大きい」

逢音はボクサーの構えをした。

逢音「さー、一発打ってこい!しゅっしゅっ」

シャドウボクシングを始めた逢音に園子はさながらボクサー気取りでシュッっとパンチを出した。

手袋の先端が逢音の腕に触れた。その瞬間、逢音は意識が遠ざかるのを感じた。

(あれ、これは?この感覚は…)

園子「さー、逢音もかかってきなさい」

逢音は無意識に力強いパンチを園子の顔面にぶち当てた。

思いもよらないマジパンチを受けた園子はその場に倒れてしまった。

可愛そうに鼻血が出てる。

園子「だ、だれが当てろつったよ!しかも今本気だったな逢音!」

確実に意識が戻った逢音。

(まさか、まさか…この手袋が…触覚?触覚の神なの?!)

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