第3話 視覚のメガネ

瞳美は逢音の水やりが終わるのを待ち、赤の下ぶちメガネは外して逢音に声をかけた。

「逢音さん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

逢音「あ、はい。なんでしょう」

(無防備な逢音)

瞳美は黒縁メガネをかけ逢音の瞳をじっと見つめた。

瞳美「あなたが持っているベルについて、知っていることを全て話しなさい」

逢音「あ、はい」

逢音はベルを手に入れた経緯からこれまでの出来事を全て話した。

(あれ、私しゃべらされている。さっきの代償?いや、これは違う…彼女の瞳が私に…)

全てを聞いた瞳美は、驚き、戸惑った。

(やはり、この子は聴覚の神の担い手…どうするか…とりあえず儀式はすませとこう)

瞳美「あら、逢音さん背中にテープの切れ端が…とってあげましょうか」

逢音「あ、すいません。お願いします」

(代償クリア!)

瞳美は音楽室には行かず、校庭の隅の裏庭に足を運んだ。

そして鞄から再び黒メガネを取り出し、つぶやいた。

「Vision GaGa!」

メガネのレンズに顔が現れた。ビビとそっくりなニコチャンマークの顔だ。

瞳美「ガガ!現れたの!五感の神の使い手が!」

ガガ「見てたよ。あれは聴覚のビビだ」

瞳美「こんなに早く。しかもこんな身近にいるなんて…」

ガガ「灯台もと暗しだね」

瞳美「どうしよう。どうすればいい?」

ガガ「ためらうことはない。殺ればいい。それが君の生きる意味だったろ」

瞳美「そうだけど、だけど…」

ガガ「奪うんだよ。視覚の魔力を。向こうはまだこちらの能力に気づいてない。だけどビビはもう気づいた。あの娘がビビと会話をしたら、お前の能力を知ることになる。やるなら今しかない」

瞳美「同級生なんだよ…たぶんいい子なんだよ」

ガガ「所有権を貰えるとでも思ってるのかい?向こうも能力の面白さに気づいてるよ。簡単に手放しゃしないさ」

瞳美「考える。考えてみる。殺すのは最終手段」

ガガ「後悔は先に立たないよ。下手すりゃ自分が殺される」

瞳美「わかってる!もう黙って!」

瞳美は黒メガネをしまった。

場面は変わって音楽室。

逢音はとまどっていた。

(どうしよう。全部しゃべってしまった。なぜ?)

(水やりをやった時点で代償はクリアしたはず。いや、クリアできていなかったのか?)

(それより、なぜ瞳美は、ベルのこと聞いてきたんだろう?)

(あ、ビビなら知ってるかも…帰宅したら聞いてみるか)

瞳美が音楽室に現れた。

瞳美「みなさん。今日入部した篠崎逢音さんには、当部はじまって以来のマネージャーをやってもらうことにしました。逢音さん、よろしくね」

逢音「あ、はい…よろしくお願いします」

瞳美「マネージャーといっても役割がはっきりしてるわけじゃないから、しばらくは私の指示したことだけやってくれればいいわ。早速だけど2人だけで打合せしましょう。悪いけどまた生徒会室に来てくれる?ここじゃうるさくて話もできないから。」

瞳美「みんなは、普通に練習してて」

部員一同「はーい」

瞳美「じゃ逢音さん、いきましょうか」

逢音「はい」

逢音は瞳美の後ろを歩きながら、今まで経験したことのない不安と焦燥を感じていた。

場所はまた生徒会室。だれも入ってこられないように瞳美は内側から鍵をかけた。

瞳美「とりあえず。私の話を聞いてほしい」

逢音「はい」

瞳美「あなたが聴覚の能力者であることはもう知っている。あなたも気づいたかもしれないけど、私も能力者なの。私は視覚ね。」

(瞳美は黒メガネを取り出した)

瞳美「このメガネをかけて、最初に目があった人物に命令を下す。あなたがベルの話を全部話してくれたのも私が命令したからなの。びっくりしたわ。同じ高校に五感の神の力を持つものがいるなんて…」

逢音「私もなんとなく感じていました」

瞳美「あなたがベルを手に入れたのは、昨日よね。私は3年前。祖父から受け継いだの。

祖父は亡くなったわ。同じ能力者に殺された。ただ、殺される前に祖父は私にこれを託したの。」

逢音「………..」

瞳美「私は…私の望みはね、すべての能力を持つことなの。」

逢音「え、えええええー」

瞳美「安心して、あなたの能力をすぐに奪うことは考えていない。でも奪うことはできた。

このメガネをかけてあなたに自殺を命じればいいのだから」

逢音「!!(声にならない悲鳴)」

瞳美「そうしなかったのは、あなたと協力したかったから。私の望みを叶えるためには、協力者が必要だと考えた。あなたなら、あなたとならやっていけそうな気がしたの…」

逢音は自分にこれから起こるであろうさまざまな事象に思い至ることもなく、茫然としていた。ただぼんやりと頭に浮かんだことがあった。

(私が瞳美のおメガネにかなったってこと…?)

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