第2話 大きな代償
ベルを手にした翌日、逢音は学校にいた。
逢音は私立の女子高に通っている。地元ではそれなりの偏差値が必要な進学校であり、いわゆるお嬢様学校と言われている。
逢音の「制服がかわいいから」という理由だけで、進学を許してくれたのは、そこそこ父親の収入が高いことと逢音が一人娘であることに無関係ではない。
ベルは、スポーツバッグの中に閉まってある。
2時限目が終わった時、同じクラスの友人園子(そのこ)が声をかけてきた。
小学生からの幼馴染で逢音より成績も運動神経も容姿もちょっとだけ上。友達偏差値というのがあれば、園子は65くらいだと逢音は思っている。
園子「逢音、次の物理予習やってきた?」
逢音「うんにや」
園子「え、やばくね。波セン(物理教師波沢先生)さ、日付で当ててくるじゃん。今日の日付だと出席番号からいったらモロに逢音当たるよ」
逢音「そうなんだけど…なぜか当たらない自信があるのだよ。ちょと職員室行ってくるよ」
スポーツバッグを大事そうに抱え、職員室に行く逢音の背中をポカンと見送る園子。
失礼しますと言って逢音は職員室に入り、まっすぐに波沢教諭の席に行った。
逢音「波沢先生、2年C組の篠崎です。お願いがあってきました」
すでに逢音の手にはベルが握られてる
波沢「なんだ?篠崎」
チリーン
逢音「これから授業で私を指名しないでくださいね」
波沢「わかった」
それを聞いた逢音は踵を返し、今度は担任の柴崎先生のところに行った。
逢音「柴崎先生、日直の日報ついでに持っていきますね」
柴崎「ん、ああ頼む」
(はい終了!代償なんてやりかた次第でリスクなくせるんだよ。私天才!)
ほくそ笑む逢音。
当然物理の時間で逢音があてられることはなかった。またこれからもこの授業で当てられることもない。
お昼は弁当だ。同じく弁当の園子と一緒に食べるのが日課となっている。
園子「物理ラッキーだったね」
逢音「あ、うん。なんかもう当たらないよーな気がする。なーんてな」
園子「なんか機嫌よさそ、今日の逢音。なんかあったの?」
逢音「べ、べつにぃー。あのさ、園子、今悩みとか欲しいものとかある?」
園子「なんだ突然。これでも思春期ど真ん中の乙女だぞ。悩みも欲しいもの宇宙規模であるわー」
逢音「すぐにかなえて欲しいことって…ある?」
園子「なに、マジに聞いてんのか?うーんそーだなあ、私、吹奏楽部じゃん。今度のコンクールメンバーの選抜にどうしても入りたいんだよねー。2年だしね。でもトロンボーンうまい一年の子がいてさー。状況はかなりキビシイ」
逢音「それは誰が決めるの?」
園子「顧問の響先生だよ」
逢音「選抜されるといいね。きっと大丈夫だよ」
園子「逢音の大丈夫は逆に不案だな。ま、せいぜい精進しますわ」
次のダーゲットは決まった。
場所と時間は一転して放課後の職員室。
響先生と逢音が対峙している。
チリーン
逢音「次の吹奏楽のコンクールメンバーに園子を入れてください」
響「わかった」
逢音「ありがとうございます。お礼に、先生のごみ箱のごみ捨ててきますね」
(よろしく頼む。ありがとう)逢音が期待していた言葉はこれだった。
しかし…..
響「それより、篠崎も吹奏楽部入ってくれないかな」
逢音「はい。了解です。すぐ入部します」
(あれ….あれれ…..私何言ってるんだろ)
気が付くと音楽室にいて吹奏楽部の部員から歓迎の拍手を受けていた逢音。
(やばい、まずった。これちょっと代償大きすぎ…)
逢音は中学生の時に吹奏楽部でトランペットを吹いていた。園子に誘われて入部したのだ。
ただ、1年あまりで退部している。理由はアンティーク探しに夢中になったからであった。
逢音は考えた。
(せっかく、魔法のベルを手に入れて面白いことやろうとしていた矢先、部活なんてとんでもない。ただ、今更な… 。どうするか… ビビの力を… いや部員全員にかけるのは無理だ。とりあえずトランペットだけは避けなければ…)
園子「びっくりしたよ。あんなに嫌がってたのに… もちろんトランペット吹くんだよね?」
逢音「ああ、いや、その…もう二年だし、正式な部員じゃなくてなんかお手伝いできたらなあーって思って…そう、そうだ。マネージャーみたいな役ってないのかな?こう雑用係的な…」
園子「うーん。文化部でマネージャーなんて聞いたことないなあ。部長に相談してみたら?」
逢音「部長?部長って誰だっけ?」
園子「え、知らないの?曽宮部長よ曽宮瞳美(そみやひとみ)。」
逢音「ええ、あの生徒会長の?」
園子「そー、今は生徒会室にいるはずだけど…」
逢音「行ってくる」
(とりあえず、マネージャーにしてもらってそのうち幽霊部員になっちゃおう。認めてくれという気はないよ。ふふふ、ビビの出番じゃ)
曽宮瞳美 容姿端麗、頭脳明晰、先生や生徒から絶大な信頼を受けている。秋に圧倒的票数で生徒会長になった人物。友達偏差値75。
生徒会室にいくと瞳美がいた。都合のいいことに一人で生け花に水をやっていた。
逢音「失礼します。曽宮会長。2年C組の篠崎逢音です。この度、吹奏楽部に入部しました」
瞳美「うん。響先生から聞いている。もうすぐ音楽室に行こうと思ってたとこ。」
赤い下ぶちメガネに知性と親しみやすさを感じた。
逢音「実は、入部するに際してお願いがありまして….」
ごそごそとスポーツバッグからベルを取り出す逢音。
瞳美「ほう。ベルをやりたいとか?」
逢音「ち、違います!」
チリーン
逢音「私を自由参加のマネージャーにしなさい。」
瞳美「わかりました」
逢音「じゃあ、よろしくお願いします。あ、水やり私がやりますので、どうぞ吹奏楽部のほうへ」
瞳美「あ、悪いわね。水やりよろしくね」
(代償クリア!)
ほっとする逢音を後に生徒会室を出る瞳美。
(今、なんか記憶がとんだような…え、まさか、私がかけられた? ベル?ベルの音?
こんな身近にもう一人....篠崎…篠崎逢音がそうなのか….)
そっと生徒会室に戻る瞳美。窓越しにいそいそと花に水をやっている逢音がいる。
(まさか…とは思うが、一度試してみるか)
瞳美はゆっくりとかばんの中から古めかしい黒縁メガネを取り出した。
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