ベルのビビ

映画泥棒

第1話 出会い

主人公逢音(あいね)は、高校二年生の女子。勉強嫌い、運動苦手、手先不器用な彼女の唯一の楽しみは、アンティーク物の収集。

ある冬の日曜日、行きつけのアンティークショップで逢音は、埃まみれの古いベルに興味を惹かれる。

とんでもない高値がついたそのベル。そっと値札をはずし。なじみの店主に向かって逢音はチリーンとベルを鳴らし、冗談っぽく甘えた声でこう言う。

「おじさん、これ値札ないからただで譲ってくれるんでしょ?」

「いいよ。持っていきな!」

想定外の返事で逢音はベルを手に入れた。

上機嫌で家路を急ぐ逢音。

横断歩道で信号待ちをしている逢音の前にボールを追いかけてきた幼児が飛び出してきた。

「お願い。その子を助けて」

背後から聞こえた母親らしき人からの悲鳴に、逢音の意識が飛んだ。

気が付くと目の前に泣き叫ぶ幼児と感謝する母親。

「あれ、わたし?わたしが助けたの?」

幼児を助けたことよりも、脊髄反射的に動いたのであろう自分の行動とその間の意識の喪失疑問をいだきつつ、鞄に入れたベルが無事であったことに安堵する逢音。

自宅に戻った逢音は、母親に幼児を助けた事実を伝える。

「晩御飯はなにがいい?」

そう聞かれたビ逢音は、高級レストランの客を気取り、ベルを鳴らし

「正義のヒーロービビに、まぐろの大トロ20巻を持てぇーい」

と言ってげらげらと笑う。

一瞬母親の目の色が変わったような気がした。

「承知いたしました」

母親はすぐに携帯電話で寿司屋に大トロ20巻を注文した。

目の前でそれを見ていた逢音は驚いた。

「ちょ、ちょっと冗談だよ」

「ご命令ですから」

「め、命令?」

母親の目の色が戻ったように見えた。

「あ、逢音。年末の大掃除やるから、窓ふきお願いね」

「えー、寒いから嫌だ。部屋の片づけならやる」と言いかけた言葉は

「はい。すぐにやります」

に変わっていた。そして意識が遠のいた。

気が付くと、家の外に立っていた逢音。手にはガラスクリーナーの容器と雑巾を持っていた。目の前の窓ガラスはきれいになっている。

「え、これわたしがやったの?」

腕時計を見ると、母との会話から1時間が過ぎていた。

たった数時間のうちに不思議な出来事が4つ。

・ベルをただで手に入れた

・無意識のうちに幼児を助けていた

・母親が大トロ20巻を注文してくれた

・無意識のうちに窓ガラスの掃除をしいていた。

この4つの出来事の前後の記憶をあらためて辿るビビ

「はっ!ベル?」

4つ全ての出来事が…いや正確には2つの出来事がこのベルを鳴らした瞬間から始まっていた。

常識的に考えれば、高価なベルをただでくれるなんてあり得ない。そして母親が大トロ20巻の無茶な要求をあっさりと飲むわけはない。

その後に生じた現象…自分の意識なき行動。

逢音は、ベルを手にし、あらためてしげしげと眺めた。

ベルの持ち手に英語の文字が刻まれていた。

「Hearing BiBi」

口に出してその英語を呼ぶと

「やっとお呼びだしかよ」

手に持ったベルがしゃべり始めた。

驚いた逢音。

ベルの鐘の部分に顔が現れた。ニコチャンマークに似た顔だ。

その顔がまた言葉を発した。

「私がビビ。音の世界をつかさどる神。なーんてな。」

逢音「ひいいいいいい。しゃべった….ベルがしゃべったぁぁぁぁぁ」

ビビ「ほうどうやら、わたしの力を知らないご主人様のようだ」

逢音「あなたの….あなたのせいなの?」

ビビ「そうだよ。いや、正確には君の命令に従っただけだけどね」

逢音「わたし命令なんか….」

ビビ「ちっちっちっち。説明が必要だね」

ビビはこのベルの能力について説明を始めた。

1.ベルを鳴らした時に一番近くでその音を聞いた人間は、ベルを鳴らした人間の命令に従う。この行為が行われている間、命令された人間は一時的に記憶を失う。

2.ベルを鳴らした人間は、その瞬間から他の人間から自分に向けられた命令に従う。これもまたこの行為が行われている間、命令された人間は一時的に記憶を失う。

3.このベルは手にして最初に力(チカラ)を使った人間が所有者となり、所有者は他の人間に譲渡する意思をもって渡さない限り、その権限が他人に移ることはない。

ただし、所有者が死亡した場合はリセットされ、それ以降最初に鳴らした人間が新たな所有者となる。

(これは能力なんかじゃない。魔力だ…)

逢音「あなたは悪魔?それとも…」

ビビ「悪魔でも天使でもない。そうだな…あえていうなら神だ」

逢音「神….」

ビビ「そう…人間の五感をつかさどる神だ。わたしは五感の一つ聴覚の神ビビ様であーる」

逢音「でも、そのビビ神様は私の命令を聞くのね。なーんだ人間に操られる神?」

ビビ「うっ….そういわれると….」

逢音「つまり、これまでの不思議な出来事はすべて私がベルを使ったからで、これからも私の思い通りにあなたを使うことができる…..正解?」

ビビ「まあ不正解ではない。ただ、使い道を誤ると……」

逢音「私は馬鹿じゃない。人を操ることもできるけど、操られるという代償も払うってことでしょ?」

ビビ「ま、そういうこと」

逢音「大丈夫、私ならうまく使える。そうか…聴覚の神ビビか….」

チリーン

逢音「ビビ、これから私のすることよーく見といてね。人生大逆転ゲームの始まりだぁぁぁ-」

ビビ「あ、私には魔力聞かないよ」

逢音「あら….」

その夜、逢音はリビングのソファで寝た。胸元には諭吉が三枚置いてある。

ベルを鳴らし父親に小遣いをねだったのだ。

そうして手に入れた3万円。そして払った代償は母からの

「逢音、さっさと寝ちゃいなさーい」

(この力明日学校で使ってみよう)

飲み込まれる睡魔の刹那、逢音はそう思った


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