第54話 不穏な兆し・2

「反省してる、話もしっかりとさせて頂く」


「頭にタンコブ作って置いて言うセリフじゃねぇだろ......

 分かってんのか!? 人の命に関わることだろ!?」


「へい! その通りでございます!」


へりくだった態度が小馬鹿にされているようで

どうあってもコイツは人を苛立たせる才能があることが良く分かった。

昔はここまでじゃなかったような...変な現象で賢さも落ちてしまったのだろうか


お互い、頭を心配し合う歳でもないというのに......



「ええ、では話を戻させて頂くとまあ~

 あれだ、また同じ現象が起きてる」


サラッと言うことでは全くないのだが、

度重なる感情の起伏でこれ以上取り乱すことはなかった


「同じってことは...アンデッドになっちまったってことか?」


当然の確認のつもりで言ったことに

ラッテは豆鉄砲喰らったような顔をした


「へ? アンデッド? それって...ゾンビとかの?」


「ああ、そうだよ。

 そういう情報が例の事件の時に出回ってたろ?

 最近になってからだとしても話は聞いてるだろ?」


魂が抜けたような顔で聞いたかと思えば

顎に手を当てて悩み込み始めた


「んん~...ん~?

 そうなのかなぁ? 別に仲間を襲ってたりしてるところは見てないけどな...」


どうやら両者に認識の違いがあるようだ


「じゃあ、今に起こってるのはどういう異常性を持ってるんだ」


一度考え始めると

いつまでも小骨が喉に引っ掛かっているかのように

気にし出すことを知ってる。

リードし続けなければ立ち止まる子供みたいなものだ


「ん? ああ、今のは何かこう...

 無茶苦茶なんだよ。 やることなすことがエネルギッシュって言ったら...

 聞こえが良すぎるけど......」


言い淀みながらも

そこそこの整理がついてパッとこっちを見た


「皆揃いも揃って面白い色の肌になっちまったくらいしか

 集まった時に異変は感じなかったんだが、ある時俺の仲間探しのチームの一員が

 人間離れし始めたんだ」


「人間離れ......?」


血色の悪い肌を気にもしないところが常識を知らない

うちの村の仲間達らしいが、

事態は身に覚えのあるような話になってきた


「俺達は草の根を分けても捜す、を信念に

 拠点としてる廃村に皆を集めてから俺達の本当の故郷に帰ろうって

 計画だったんだが、内一人が本当に草の根掻き分ける方に囚われちまったんだよ!」


「...というと?」


「そのまんまだよ!

 雑草から大木まで有り得ないパワーで引っこ抜くのに夢中になってんだよ!

 おかしくないか!?」


この男から聞く真剣な話はいつも嘘っぽい上に

滑稽に聞こえてしまう


「なんだよその疑った顔は!

 ただでさえ拠点の周りを覆う植物全てを引き抜きながら、

 そいつはまだ引き抜くのをやめねぇんだ!

 あのままじゃ、世界全ての緑をアイツがダメにしちまう!!」


熱を帯びる訴えに俺とアイリスは困惑した反応しか出来ない。

アメルは遠くで魔法の練習しているように見えて遊んでいるようだ



「ああ...他にないのか?

 目に付く特徴とかは」


「うーん...後は変な煙噴きあげてたくらいかなぁ」


「......今なんて?」



何故こいつは一番重要なことを真っ先に言わず

重要とも思っていないんだ


「どす黒い煙だよ、ブワーって」


「それ...お前からもさっき出てたぞ」


「え?」


話が見えて来た。

重ねて真相に迫る


「とりあえずそれはお前が思うくらいに重大なことじゃないとして...

 お前はそれを解決すべく、賢者とかを探し始めたんだな?」


「お、おう! そうだ!

 焦って探してたら近くの街なり村を訪ねるだけで良かったのに、

 いつの間にか誘われるように走り始めてさ。

 アレは不思議だったなぁ、ドンドン体が軽くなって

 それも気配...とかいうのが分かったような気がして......

 で、意識が戻った時にはここでぶっ倒れてた」


「うーん......分かった、少し休んでろ」


さっさと立ち上がるとラッテから距離を取って

アイリスの意見を仰ぐ。



「どう思います? 今の話」


下を向いて思索に耽る彼女は

しばらくしてから答えた


「本来アンデッドというのは、元々死体であったりを扱うために

 高度な指令を与えられません。簡単な指示を一つ、人を襲え、または喰らって生きろなど

 生存することの第一に優先すべきことの如くアンデッド自体は思い込んで

 それだけをひたすらに遂行します...なのでもしかしたら、

 焦りと言った感情の乱れに一つの強い目的意識が一旦芽生えると

 せっかく戻った人間の正気を追いやってしまう......

 それもアンデッドとしての力も伴って」


それについては自分にも覚えがある。

己の意識を離れて暴走する身体...

自分の場合は理性よりも秀でた判断をすることもあるが......


ラッテが後ろから首を伸ばしたりしているのがチラチラ見える、

落ち着きの無い友人に真っすぐな瞳を向けて続ける


「私が倒した魔王はその指揮の元、魔族の軍に元人間も取り立てて

 自分の駒としていた。一番最初での戦場でも、この剣を受けて茫然と立ち尽くす

 人が多くいるのが見えました。それが気になって後に調べてみるとアンデッドにされた

 者たちであったことを知って、この旅を決意したのです。

 時を争う救護活動だとは思いましたが、未だ魔王の力の影響が残存していたとは...」


「変な現象は、それで説明が付きそうですね...

 そうなると、これからの進路はどうしますか?」


俺達は孤立無援になっている人々を優先して救うことになっている。

本音は村の皆に会って、事態を解決に向かう様にしてあげたいが

そうなると順番が変わってしまう


「彼らを救えるのがこの剣以外にもあると良いのですが......

 このまま放置して他の区域に住む一般人に被害を出すことも考えられます。

 優先順位を変えざる負えないでしょう」


「なるほど...分かりました。

 急いで助けに行きましょう」


方針が固まった。

今立ち止まっている時間も惜しい、

奴にすぐ案内させねば


「終わったか~?」


呑気な男に早速指令を出す。



「ラッテ、村まで先導頼むぞ。

 あと一つ言っておくが焦らなくて良いからな?」


暴走しないように釘を刺して置くのも忘れずに

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る