第55話 村先案内人

「さあ、急いだ急いだ!」


前を行く友人は俺の指示を受けてかなりのスピードで走っている。

これが感情面のコントロールが少しでも利かなくなると暴走すると考えると、

指示側が慎重にならなくてはならない


魔王はそんな危なっかしい爆弾に手綱をつけて操っていたというのか


その力強さは伝説の勇者の聖剣の前では無力だが、

それ以外に対してはかなりのものがある


一旦暴走したら誰がどう抑え込んだというんだ......



「ハア、ハア......」


目の前の意気揚々と先導する男と違って辛そうな息遣いが聞こえてくる。

もちろんアイリスだ


「大丈夫ですか? 無理しなくてもさっきみたいに俺が――」


サッと腕を出して俺を制した、

そして後ろでフワフワ楽そうに浮かんでいるアメルを見る。


彼女はもしかすると弟子に情けない姿は見せたくないのかもしれない


弱っている事情を告白してアメルに逃げられたことが

悲しい思い出として根深く、心に残っているのか


ならばそこは俺が気を利かしてやるべきだ......


「おい、アメル」


「ん~?」


師匠と仰ぐ人の苦しみも知らないで大して疲労が見えない弟子。

師の心、弟子知らず


「そうやって魔法で浮かんでるの楽そうに見えるけど、

 何か疲れたりしないのか?」


その問いに何故か得意げな顔になっている


「う~ん、まあアタシクラスだったら別にそこまで精神疲労も無いかなぁ」


宙でクルクルして余裕さをアピールしてくるが、

自分には十分な答えだ


「ふ~ん、じゃあやっぱり疲れる要因があるんだな

 それじゃあ......!」


少し速度を落として後方にいるアメルに飛びついて捕まえる


「う、うわ! ちょっと何すんのよ!」


「なーに、遠慮することはない。

 俺が抱えて走ってやるさ」


「そんなこと頼んだ覚えはないんですけど!」


ジタバタする小さいのを小脇に抱えながら


「アイリスもどうです?

 前は先客いますけど背中なら空いてますよ?」


明るい調子で聞くと笑顔で応じてくれた。



「ん? ハハッ、なんだよウィン?

 まさに、おんぶにだっこって感じだな」


結果ラッテが振り返って言った通りの状態のまま

走行が始まった


「大丈夫ですか? 私のことは降ろしてもらっても...」


アイリスが気兼ねなく楽できるためにアメルまで抱えているのだから、

本来なら弟子の方を降ろしてやりたいくらいだ


「大したことありませんよ、二人とも軽いですから

 それにしてもお前は軽すぎるだろ、ちゃんと食ってるのか?」


「...アタシは小食なの」


前で猿の子供が親の身体に張り付くようにして抱っこされてから

恥ずかしがってるのか、身体のように声が小さい


後ろではそれを控えめに笑っている。

少し空気が和んだことで変に気負わず、このまま俺に任して貰えそうだ



「お、見えてきたぞ!!」


ラッテが大きな声で叫んだ。

ショートカットだとか何だとか獣道を走らされた苦労に見合うくらいの

早さで目的地までもうすぐらしい


......それにしても早すぎるような気もするが


「この先段差あるから気を付けろ!」


鬱蒼と茂る森の中は洞窟のように空からの光を遮断している。

出口は眩いばかりに日光が溢れている


随分と傾斜のキツイ所も上ったように思われることだし、

きっとその先から景色が一望出来るのだろう


光の中に案内人が消えていった、

その後に続く



一体どんな景色が待っているのか


山登りの登頂直前のような興奮と期待を胸に

薄暗い森から躍り出た



するとそこには遠くには立派な山々が聳え立ち、

見たことも無いよう大きな川がその山の麓まで伸びている。

そして真下には様々な色の植物が敷き詰められたような樹海が......


...真下?


目の前にラッテはいない



それに段々と足が空を掻いて高度が下がっていることが分かる。


これは......



「崖じゃねぇかああァァ!!!」


「「キャアアアア!!!!」」



俺達3人は真っ逆さまに落ちて行く


大自然が生んだ緑のカーペットに

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る