第56話 村先案内人・2

「ああ~!! ヤバい!!」


落下体験がつい昨日もあったことがだからといって慣れるものではない。

そもそも今回は二人も守らなければならない


「な、何とかしてよウィン!」


「俺だって何とかしたいけど!!」


必死に思考を巡らすが

急かすかのように森の緑はつぶさに見えるまで迫って来る



「こ、こうなったら

 アメルが何とかアイリスの背に回るしか――」


「アメル! 貴女の魔法では3人を浮かすのは無理なのですか!?

 一瞬でもいいんです!」


焦って前と同じやり方に頼ろうとするのを遮っての提案は


「あ」


どうやら魔法使いの反応を見るに最適解なものだったらしい。


「なんだよ、その反応!?

 前にも出来たんじゃないのか!?」


「う、うるさいわね!

 これからやるんだから黙ってて!」


そう言ってアメルはすぐさまアイリスの方に回って

今から目を閉じてぶつくさ唱え始めた。


もう目の前の現実という名の地面に振り返ることもしたくないほどに

状況が絶望的なことが分かる



遂に幾重にも重なる木の枝や葉が俺に襲い掛かる


「いたたた!!」


メキメキ音を鳴らしながらも何とか手を広げて

背後を守りながら降下速度を落とす。


しかしそれでは到底落下の衝撃を和らげられるとは思えない!


死の黄土色が視界に広がった時、


俺自身が救いの魔法を唱えるかのように黙っていた口を大きく開いた


「アメル!! 早く!!」


「漂流せよ≪フルーム≫!!」



もう間に合わない!


そう目を瞑ったように視界が自分の影で真っ暗になった瞬間、

自分たちをシャボン玉が包んだように地面スレスレで

ふわりと浮かんだ。


本当に泡の中でバウンドしたかのようだ


「解術≪キャスペル≫!!」


そのまま高度が上がっていく感覚がピタッと止まって


そのまま落っこちた



「ぐへっ!!」


結局二人に下敷きにされるのは変わらなかった。


一人が急いで上から退いて

一人がやけにゆっくり退くのが分かった


それぞれどっちなのか、ということも



「大丈夫ですか?」


優しく肩に触れられて

こちらも手を上げて応えた。


今は懐かしい冷たい土の感触に字のごとく埋もれて

休憩したい



「大丈夫ですよ、そいつ頑丈なんで」


と思ったの束の間、

生意気な魔法使いに物申すために即座に立ち上がる。


「おいおい、アメルさんよ」


「何よ?」


身長差の前に呆気なく見降ろされながら

彼女は強気のご様子だ


「さっきも言ったが、

 何故こんな芸当を可能であったのにも関わらず、以前同じようなことがあった時に

 お前は何もせず、俺をただただ緩衝材代わりにしたのか......

 ご教授願おうか?」


腕を組んで更に上からの目線になったこちらに

小さな魔法使いは謝罪など勿論せずに

噛みついて来る


「し、仕方ないじゃん!

 だって前はパニックになってたんだもん......」


「ふーん...それが言い訳になるとでも?」


決して頭を下げない、

顔を真っ赤にさせた良いご身分の女の子を追い詰めていると



「二人とも話は後で、殺気を持った気配が多く近付いて来ています」



天罰かのように

思わぬ刺客を呼び寄せてしまった

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