第13話 劣悪

「ここって......?」



確認を取りたくて聞いたのだが


まるで耳にでも入らなかったかのように引っ立てられる。



そして、門番の様な人に目隠しを付けられて魔法の手錠で引かれるがままに


長い間歩かされて、やっと目隠しを外されると


一部屋の牢屋の前に連れてこられていた。



「ここで最低でも何日かしたら出られる、


 それまで大人しくしてるんだな」



もはや罪人に対するような態度に変わった男が中に引き込むような動作をすると


身体が引っ張られるように中に入ってしまった。



転がって立ち上がろうとした時には手錠が消えていたが


そんなことには気も留めずに鉄格子にしがみ付いて、


その男に問う。



「本当なんだな?


 随分と被害者である俺にする待遇では無いと思うが」



こういう大きな街の取り締まりをする役人達がどのように


事件に少しでも関わっている人物に接するか、

なんて言うのは田舎者には分からないが


横暴な気がするのは間違いないだろう。



「ああ、そうかもしれないな。


 だがこの街じゃ疑わしきは罰する、

 少なくとも手元に置いておくのを先決としてるんだ。


 無実の証拠が出れば解放してやる


 悪く思うなよ」



そう言うと男は去って行った。



大きくため息をつくと


とりあえず座り込む。



家畜の小屋の様な一室に暇を潰すような物もあるはずがなく、


小さい窓から日光が差すだけの質素な空間であることを確認すると


またため息が出た。



「どうしろって言うんだ......」



これから驚きと初めての体験に溢れた冒険の旅が始まろうとしていたというのに、


まさか牢屋行きになるとは思わなかった。



それも事情を話したらすぐにでも解放してくれるもんだと思っていたもんだから


不安で仕方ない。



このまま冤罪でこんな所にいるようなことにはならないだろうな......?


仮にも世界を救った勇者の仲間になった男がだぞ......?



自分に出来ることは無く、


アイリス達がどうにか助け出してくれるか


いつになるかも分からない魔法の証拠とやらが出るまで待つしかない。



そんな事実に業を煮やして


思わず石造りの床を素手で殴ると




バキッ




と音を立てて床の方にヒビが入って


やった本人である自分がビックリした。



それにこちらに歩いてくる足音が聞こえて咄嗟に


そのヒビの上に座って隠した。



足音の正体はさっきとは別の職員と連行されている者だった。


連行されている方は入れ墨ばかりが入っていて


職員も心なしか緊張して歩いているように見える。



その後も数分経ってガラの悪そうな男が連れて行かれているのを見るに、


この街は治安があまり良くないのかもしれない。



そんなことを考えながらも暇だったので


先ほどのように床をへこませない程度に殴れる、


力の加減を学習する時間になった。



ただひたすらに床や壁を叩くこと数十回、


段々と丁度いい加減が分かってきたところで


また足音が聞こえてきた。



今度はどんな奴が連行されたのか見てやろうと身構えていると


現われたのは俺をここに連れて来た奴だった。



「言い忘れていた、今くらいの昼時になると」



そう言って部屋にある小さな机を指す。


すると魔法陣が展開されてランチプレートに食べ物乗ったものが現れた



「そうやって飯が転移して出てくる、昼飯が一番量としては多いから


 せいぜい今の内に食べ尽くさないことだな」



そんなことを嫌味な笑みをしながら残してソイツは去った。


それだけを言いに来たんならもう少し優しい言い方なり出来ないものかと


考えながら転移されたランチを見ると、


パン一切れに野菜と肉の切れ端のようなサラダと木の実が一粒だけだった。



それに飲み物は犬にでも飲ませるようにトレイの窪みに水が貼ってあるだけ



どうやら俺も転移させられてとんでもない所に来てしまったらしい。

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