第8話 適性と歳

そうして飛び出した俺とアイリスだったが、


いつの間にか俺が彼女に手を引かれて連れられていた。



何気なく繋がれる手に恥ずかしさを覚える。


俺が勝手に

目を離した隙に故郷に帰ってしまう、とでも思っているのだろうか?



それに勇者の話が触れ回り始めたのか、


行き交う人の視線がこちらに向いている気がして仕方ない。



「あ、あのどこに行くんですか?」


「貴方の適性を見に行きましょう。


 いくらあなたが強いとは言っても、


 手ぶらで旅に同行させるわけにはいきません」



確かにこれから旅をするとなればそうだろう


しかし......



「もう魔王は倒されたのでしょう?


 だったら――」


「甘いですよ、ウィン。


 魔王が襲来する前からこの世界には恐ろしい魔獣が自然に湧くではありませんか


 その最たる巣窟にあなたは居たのですが」



言われてみればそうだが......


俺は何の取柄もない村人だ。


正体不明の不気味な力を持った身体にになったからといって、


何か変わるものだろうか



「う~む......


 残念ながら彼には戦いの素質は見受けられませんなぁ」



豊かな白い髭を蓄えた爺さんが水晶越しに俺を見て告げる。


内心これを予測していたが、


あまりに自信満々に

今の俺なら変化があるに違いないという彼女に言い出せなかった。



今も大人しい彼女が


引かぬ、退かぬ、とばかりに強気に


適性判断師の爺さんに迫って抗議している。



「もう一度、よく見てください老師。


 この栄えある街・ポピーラで一番に見る目があると謳われるあなたなら、


 しっかりと強さと隠れた才能が分かるはずです」



「しかしだなぁ......勇者殿、


 これで3度目ですぞ」



困り顔になるのも仕方ない、


俺自身も平凡なステータスを見せつけてばかりで申し訳ないくらいだ。


さりげなく勇者だとバレている事を彼女は意に介さず続ける。



「その勇者に免じて4度目をお願いします」



頑として譲らない態度に、


優しく穏やかな姿だけではないのだな


と感じる。



根っこの部分は過去の村娘時代から誰にも負けていなかったように思った。



結局、結果は変わらず諦めて


朝食を取るために朝から人がいっぱいの広々とした食堂に入った。


適当に空いている席を見つけて座るとすぐに



「はぁ~......あなたの適性を見つけてあげられなかった」



と、自分のことのように悔しんでアイリスは突っ伏してしまった。


それが少し今までの高潔な雰囲気が崩れて


可笑しく見えて笑いが出た



その声に反応して目だけをチラッと見せて眉をひそめた。



「......何を笑っているんですか、結局あなたは言ってみれば村人のままなのですよ」


「ああ、いや......そうですね」



口元を手で隠した。


真剣に自分のことを考えてくれているのだから、


せめて彼女に見せてはいけない



「う~ん......村人でも装備できる干し草用フォークでも

 武器にするしかないんですかね」


「俺はそれでも良いですよ?」


「真面目に考えて下さい」



眉をハの字にしてちょっと怒る姿に


また口角が上がってしまう。


甲冑を着込み、剣を携える勇姿はまさに勇者だが


今目の前にするのは真面目なだけで普通の人だ。



それに綺麗だから大人っぽいが、まだ見た目は若々しい女の子だ。


歳だってそう変わらないだろう



「そういえば関係ない話になるんですけど......

 アイリスさんは今、何歳なんですか?」


「え? ああ、16です」



年下だったのか......


世界を救ったのがまさかの16。


そして俺は17で徘徊男に......



それを思うと重大なことを聞いていなかったことに気付く。



「あ、あと魔王軍の反乱の時は何歳だったんですか?」


「つまり新魔王誕生の年ですよね?


 確か......10、いや9歳だったかな?」



なんと、7年も経っていたのか......



ということは俺はもう24歳なのか、


絶望が押し寄せてくる。



当時から青春の兆しも無かったが、


若き時を無駄に過ごした重みがズシッと肩に乗っかてきた。




「ウィンは何歳なんですか?」



しばらく、答えられなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る