第7話 旅の始まり
「どうしたのですか? 先ほどから顔色が良くありませんが......
実を言うと昨日の回復魔法を掛けた後も貴方の肌色は良くなかったのですが」
「え!?」
突然のカミングアウトに自分の肌を見てみると本当に
意識がすっかり戻った直後とあまり変わっていない、
色の悪い静脈が中から見えるような腕をしていた。
あまりにも歩きすぎて、
人の活動限界を超えての活動により
遂には本来の肌色が戻ってこない体になってしまったというのか......?
先ほどから自身に起きていた、
あるいは起きていることだと言うのに
まるで実感が沸かないのは何故だろうか
やはり俺はまだ人間に戻り切れてないのか、
もう戻れないのか
「あの......汗まで掻き始めているように見えるのですが」
心配な声にサッと顔を上げて出来る限りの作り笑顔をした。
「あ~! いや、大丈夫です!」
更に心配な顔をされた。
どれだけ俺には作り笑いの才能が無いのだろうか
「......なら良いのですが
これから長旅になると思いますし」
「そ、そうですね......」
確かに......
これからまた世界の半分を金も持っていない俺が帰るとなれば、
相当の長旅になることだろう。
意識が無い間に横断したのとは違って、
それはそれは様々な貴重な体験が出来ることだろう
ボロボロになることを覚悟で。
「ふぅ~......」
出来るだけため息とならないように息を吐いた。
気苦労で肌の色が悪化しそうだ
そんな俺を眉をひそめて見てくる彼女の顔は可憐でありながらも
こちらが申し訳なくなるくらいに同情が現れている。
ここまで連れて来て貰った恩人にいつまでも辛気臭い態度は見せてはいられない
そう思い立つと気合を入れて立ち上がった。
「よし」
彼女は俺を不思議そうに見る。
「えっと、これから勇者さんも頑張って下さい。
俺も何とか頑張って故郷に帰ろうと思います」
「え、でも――」
「ありがとうございました!」
頭を深々と下げるとすぐに立ち去ろうとして肩を掴まれた。
いつの間に背後にいる
「ま、待ってください。
帰ってしまわれるのですか?」
唐突な帰郷に対する問いに口ごもりながら答える。
「まあ......はい、そうですけど」
その返答に彼女は困った顔を見せた。
そんな顔を見せられるとこちらも困る
「な、何か問題がありますかね......?」
まさか宿代を請求されたりしないよな?
そんな貧乏人ならではの下世話な考えが
吹き飛ぶような事態が目の前で起きた。
なんと勇者様ともあろうお方が
俺に頭を下げたのだ。
綺麗な髪も床に着きそうなくらいのお辞儀だ
「え、ちょっと何を――」
「私に着いて来てはくれないでしょうか!」
通るハキハキとした声が1階全てに響いて、
多くの人がこちらを振り向く。
彼女の甲冑姿を見て誰もがざわめき始めた
「あれってまさか......」
「今日の朝刊で載ってた勇者じゃない?」
周りがザワザワし始めて
しまいには勇者だとしたらその前にいる男は誰なんだ、
という話が聞こえてきて居ても立ってもいられなくなって
アイリスの腕を引いて外に出ようとする。
「な、何を――」
「あなたと一緒に行きますから! と、とりあえずこの場を離れましょう」
それを聞いて満面の笑みを彼女を浮かべると
更に喧噪に満ちた街に二人で繰り出した。
何も逃げることは無かったのだろうが、
たかだか村人である俺が脚光を浴びるのは堪えられなかったのだ
だから仕方ない。
誰かを忘れて飛びだして来てしまったが......
それも仕方ないだろう
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