第3話 伝説の勇者VS村人
あてがわれる戦意にジリジリと退く。
「な、何のことだか知らないけど貴女は俺を助けに来てくれたんだろ?
だったら――」
「もちろん。
ただ、
あなたから感じる邪気は無くとも
強大なパワーを感じる。
だから試させて頂きます、あなたの力を」
そう彼女が言い放った瞬間、周りを流れる空気が変わった。
それと共に、
勇者から凄まじい突風が吹きだす。
「安心してください、これは検査です。
荒っぽいですけど
多分
剣は使わないと思うので全力で来てください、
こちらも今出せる限りの力であなたにぶつかります」
こちらを見据える真っ直ぐな瞳に嘘は無かった、
優し気に見えた顔は今に冷たい人形のような表情で固まっている。
これが超人的な状態ということか
溢れる水面に反射するような光と強風から顔を腕で守っていると
瞬間、
腕の隙間から彼女が眼前から消えて見えた。
そして次に瞬きをした視界には
力いっぱいに殴ってくる直前のモーションが見えた。
「!」
咄嗟に腕を交差してガードの体勢を作ると
その上からスマッシュが叩き込まれた。
人間の力とは思えないほどの腕力に吹っ飛ばされて
針葉樹の木をなぎ倒しながら俺は宙を真っすぐに飛ぶ。
すぐに宙返りして地面に両手両足でブレーキを掛けて
頭を上げた時には勇者の先ほどと同じ姿が目の前にあった。
今度ばかりはもろに顔面で受けてしまう!
そう目を瞑った時、
破裂音がして何事かと瞼を恐る恐る開くと
彼女の拳を自分の手が受け止めていた。
「ほう......」
感心した声を出しながら構わず繰り出してきた
もう片方の腕も俺の片手が防いだ。
この時点で体が勝手に動いていることに気付いたのは遅すぎたくらいか
彼女の両腕を掴んで開くと
懐に俺の片足が蹴りを入れた。
裸足で鎧を蹴ったとは思えないほどの音と衝撃が生まれて、
勇者は吹っ飛ばされるかに見えたが
勢いに引きずられながらも地に足をつけて踏ん張った。
そうして続けざまに向かってきて腕や脚を振り上げて
肉弾戦が始まる。
甲冑相手に俺の身体は怯まず受け身も取れば積極的に攻撃に移って
防戦一方を許さない。
大きく相手が攻撃のモーションに入ると俺は
したこともないようなアクロバティックなバク転でかわすと
間髪入れず蹴りを放って応戦した。
どれほど打ち合いを続けただろうか
自分の身体を優に吹き飛ばすようなパワーと立ち会うこと数分、
彼女が肩で息をし始めると
今度は俺の身体がステップを踏んでパンチの手数を増やし始めた。
すると段々とこちらのペースになってくる。
たまにキックも挟んで相手に反撃の余地を潰しつつ、
攻撃の手を緩めない
自分の身体ながら、容赦ない戦法に出始めてすぐに
決着の時は訪れた
執拗に顔めがけて俺の腕が飛ぶ中、
彼女の腕のガードが完全に彼女自身の視界を塞いだ時
俺の身体は右腕を大きく引いた。
さっきの応酬とばかりにガード上からの叩き込みをするのかと思ったが、
姿勢を少し下げると腕を下から上に突き上げるアッパーのようなものを
甲冑の腹部に打ち込んだ。
「ぐはッ!」
素手のボディは鎧の防御を貫いたのか
ミシッと軋む音がして彼女が体を折り曲げた瞬間
俺の膝が彼女の頭部に入った。
そうしてひっくり返して地面に倒すと、
すぐさま俺は彼女の上に馬乗りになって
顔面に止めの一撃を叩きこもうとする
その瞬間に
駄目だ!
と、俺の必死の理性の声がギリギリで体に伝わった。
拳はアイリスの眉間スレスレの位置で止まった
「あ、危なかった......」
まるで他人事に呟いて腕を引いた俺を見て彼女は
笑っていた。
そして
「流石です......
では最後に」
そう言うと彼女は寝たままに剣を引き抜き
「最終確認です」
と体を起こしながら続けて
俺は腹に剣の鍔が当たるのを感じるまでに刀身を差し込まれた。
「え?」
あまりのことに痛覚を感じないのか、
それでも
確かに俺は間違いなく伝説の剣で腹を貫かれてしまった。
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