第4話 浄化の剣

「うわああッ!!」



悲鳴を上げてさっきまでの戦いぶりからは考えられないような


情けない声が出た。



身体を引いて腹部を探る。


一体どれだけの傷を入れられたのか......!



そう手で貫かれた部分を触っているはずだが先ほどから血も流れなければ


痛みも傷もない。


伝説の剣だけあって不思議な効果でもあるのか?



狼狽し混乱する俺に勇者は



「やはり、ですか」



納得した風に立ちながら呟いた。



「何がですか!?」



俺は動揺で大きく出てしまう声を止められなかった。



「見ててください」



そう言って彼女は自分の身体に剣を突き立てた。


悲鳴が声から出そうになったが


よく見ると不可思議な現象が起きているのが分かる。



完全に剣の顎まで刺さっているはずなのに鎧を貫いた音も様子もない



そしてそのまま剣を上に振ったが


彼女の身体は裂かれるどころか何もなっていない。


幻覚効果でも受けてしまったのか



「分かって頂けたでしょうか?」


「......いや、全然」



身体を縮せた俺が素直に言うと


今度は剣を地面に突き立てた



はずだった



だというのに刀身が音もせず地面に埋まっている。



埋まっているはずなのに彼女が剣の持ち手を横に振っても


土は盛り上がることもなく、


スイスイと刀身が土の中を動いている。



理解の遅い俺は頭の中がクエスチョンマークに埋め尽くされた。



そんな呆けた姿が面白かったのかアイリスはクスクスと笑う



「ご、ごめんなさい......


 あんまりにも、フフッ、スッとんきょんな顔をしているから」



そう言われても俺の豆鉄砲喰らったような顔は変わらない。


彼女がやっと一息ついて落ち着くと


今度は自分の腕を剣でバッサリ切った、



かに見えたが腕は何ともない。



......まさか!



「刃の部分は―――」


「そうです。


 この剣は邪気を持つ者しか斬れません」



刃の部分は物をすり抜けると言いたかったが、


大体合っていたようだ。



「だからそれ以外のものは全て当たりも掠りもしないんです」



語りながら剣を振りながら鞘に納めた。


それを見て



「じゃあ、鞘に入るのは......?」



と恐る恐る質問した。



「ああ、これは先ほども言ったと思いますが神からの授かりものなんです。


 だから唯一この中には実体として納まってくれます」



そう言って持ち手をガチャガチャと動かして中で刃が当たる音が聞こえた。



「なるほど......


 ではさっきの最終チェックというのは?」


「あなたが呪いに掛かっているかの確認です」



今一度、腹を擦りながら話を聞く。



「この剣は退魔の剣というだけあって解呪も出来ます。


 貴方から感じる強力な力は咄嗟に出る呪いの効果かもしれないと、


 強引ではありますが確かめさせて貰ったんです。


 すると読み通り、


 貴方は私と戦う中で勇者の力をも上回る強さを誇った、


 そこで呪いが引っ込まない内に剣を刺すことによって何か


 変化があるか確かめたかったのですが......


 どうやら問題もなく、


 それどころか


 期待以上の結果が出てくれました」



その嬉しそうな期待に満ちた顔で解説されながらも


俺は首を傾げる。



「つまり、貴方は純粋に強いことが証明されたんです。


 それも勇者の私よりも」



最後の付け加えられた言葉が一旦耳を抜けて、


また帰って来て脳に直接ぶつかってきたような衝撃に襲われた。



「え、え!? 俺が!?」



驚愕をまさにジェスチャーも交えて表すが彼女は穏やかに微笑んで頷いた。



「もしかしたら本当の勇者様は貴方だったのかもしれません」



真っすぐに目を見つめられてそんなことを言われたので、


凛々しい王子様にプロポーズされた女の子ような気分で


顔が熱くなった。



「い、いやいやそんなことあるわけないですよ!


 だって俺は......!」



そうは言ってもお世辞でも嬉し恥ずかしな気持ちで彼女の言葉を否定していた。



そんな嬉しい気分でいたのに急に体調は急変した



顔だけでなく体も火照ってきた。


一体、どうしてしまったのだろうか



疑問に感じつつ力なくへたり込むとアイリスが傍らに寄り添った。



「どうしたんですか?」


「い、いえなんでも――」



言いかけて熱が急に体内で暴れだしたかのように痛みが全身に走った。



「グッ......アッ!」



俺は地面に倒れて痛みにもがく。


彼女が俺の傍に膝を着くと冷静に問いかけてくる。



「体が痛みますか?」



口から声という声が出せず、


激しく頭を縦に振った。



「分かりました、回復出来るかやってみます」



そう言うと彼女は剣を引き抜いて横に構え、


片方の手で顔の前に印を結ぶと



「治癒(ゲル)」


と一言唱えると急に体が冷却されて心地よい気分になった。



すると段々とまどろんできた。



「ゆ、勇者さん......眠気が......」


「大丈夫です、回復魔法の副作用みたいなものですから


 ぐっすり寝てください。


 私がしっかり貴方は運びますから」



そう穏やかな声で言われていることの意味もおぼろげの中


子守唄のように聞こえて



俺はあっという間に深い眠りについた。



この時


意識は消えることは何度も最近にあったが、


本当に久しぶりに睡眠に入れた気がして



安らかに


ゆっくりと夜の帳が落ちるように目の前が真っ暗になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る