第82話 初心者マークを付けますよ
二人でひとしきりバグと胸(?)の話をした後で、彼らは指導者サムのところに冒険の旅に行くべく相談に行くことにした。
「指導者サムさん、チョット良いですか? 僕たちそろそろ初心者向けの冒険に参加したいのですけど。初心者プレイヤーが参加出来るパーティがあったら教えていただけますか?」
ジジは、おずおずとサムに声をかける。
「実は私達、訳あってあまり長時間ログイン出来ないのです。だから早めにパーティプレイを経験してみたいのです」
剣士サキも、ジジの後ろで剣を腰に戻しながらサムにお願いする。
「そうですねー、実は今日の初心者パーティは全部出払ってしまっているのですけどね。どうしようかな……メアリー」
指導者サムは、横にいる指導者メアリーにも声をかける。
「サム、あれがあるじゃない! ほら、先月から始まった『簡易パーティお試しパック』キャンペーン。あれなんか彼等にはピッタリじゃないのかしら」
メアリーが突然自分の仮想端末を取り出して画面スクロールを始めた。
メアリーが取り出した画面には、『初心者大歓迎! たった一日でこの世界の全てが体験出来るお試しパック始めました♬』の文字が、黒いバック画面から飛び出すような黄色くて禍々しいフォントで書かれていた。
「あう。そうか、これがあったね。これなら君達二人でもパーティを組んで近場でパーティプレイが出来るはずだ。ちょっと待ってね、今から申請用の画面を君たちの仮想端末に転送するからね」
指導者サムも、自分の仮想端末を取り出してなにやら操作を始めた。
ピコン!
軽やかな音声と共に、ジジとサキの仮想端末にサムからのメッセージが届いていた。そのメッセージに付いているリンクをアクセスすると『簡易パーティお試しパック申込書』の画面が直ぐに現れた。
「あれ、でもこれって勇者や魔法使いといったパーティに必要な別スキルのメンバー欄が空白なんですけど?」
ジジが直ぐに申請書の違和感に気が付いてサムに尋ねる。
「うん、このお試しパックって、システム側が足りないメンバーをNPCとして供給してくれるんだ。だから、君達剣士の部分だけ埋めて申請すれば大丈夫だよ。あ、ただし、今日が最初だから申請書の最後の『初心者マークの有無』をチェックしておいてね」
指導者サムは、ジジの仮想端末を覗き込むようにして画面の一番下でチカチカ点滅している文字列を指しながら付け加えた。
「最近は、君達みたいにソロでこの世界に来て直ぐにパーティプレイをしたいという要望が強くてね。今までは、パーティメンバーなんて冒険者ギルドの壁に貼ってある求人票で募集をかけたり、練習中に知り合ったりした仲間同士でパーティを組んだり、といった感じで時間をかけて選んでたんだけどね。最近は直ぐにメンバーを組みたいという要望が多くてね」
ジジとサキが申込書の入力項目に必要事項をインプットしている間に、指導者サムはお試しパックの承認処理を前倒しで進めながら独り言をつぶやいていた。
ピポ!
どうやらジジとサキは必要な入力を行って申請書を送ったようだ。指導者サムの認証画面にジジとサキの申し込みが届いていたので直ぐに承認を行い、足りないメンバーの調整を始めた。ここで設定したレベルのNPCが、彼らのパーティのメンバーになるのだ。
「良し、っと」
サムが全ての項目を記入してシステム管理者に送信をすると、ジジとサキの端末に『メンバーが全員揃いました。パーティによる魔獣討伐を始めますか?』というメッセージが表示された。ジジとサキは、躊躇することなく『はい』を選ぶ。
☆ ☆ ☆
「ふーん、パーティ名は『J & S(ジェイ・アンド・エス)』か。即席にしてはカッコいい名前ですね」
指導者サムは、顎に手を当てて新しいパーティを見渡しながら感慨深げにしていた。
「指導者サムさん、メアリーさん、色々無理をお願いしてしまい、どうもありがとうございました」
サキは彼らに深々と頭をさげる。
「それではこれからパーティでのクエストをチャレンジしてきますね」
ジジも彼らと握手をかわす。
「さぁーて、それでは剣士サキ。僕たちの新しいパーティを始めましょうか?」
ジジはサキを見る。
「そうですね、剣士ジジ。パーティもそうだけど、私達の人生これからずっと一緒に頑張りましょうっ!」
サキは、ジジの腕に抱き着くようにして体を寄せる。
そして、その後ろにはNPCによる勇者や魔法使いたちがしずしずと付き従っていく。さらにそのパーティの頭上には、おおきな大きな『初心者マーク』が輝いているのだった。
その後ろ姿は、これからの彼ら二人の人生を表しているかのようで、見送るサムとメアリーは何となく微笑ましく思い、手をふるのだった。
彼ら二人のパーティ(いや人生か)に幸多かれと!
了
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