第81話 バグと胸は永遠不滅

「間違えても何とかなる…」

 ジジは遠くをみるように目を細める。

「これが一番良いはずなんだよね、サキさんの言う通り」


 それから、剣士サキの方に向き直って、悲しそうな顔を見せる。

「でもさ、『会社が良い』と言ってもお客さんが許してくれないんだよ……」


 ジジは先ほどまで練習で振り回していた剣を自分の背中に戻しながら、こんどは同意を求めるように。

「君だって、本気で戦ってやっとこさ倒した敵がさ、実はプログラムのバグで個人の経験情報に更新されてなかったらイヤでしょう?」


「うーん、確かにそれはダメよね。だって頑張って取得した経験だもの」

「じゃあさ、経験値の更新バグはダメだけど、ボスの目の色が仕様と違うのはオッケーなの?」

「ウーン、わたしならオッケーかな」

 剣士サキは、目をくるくるさせながらつぶやく。


「でもさ。どちらも、プログラムのバグじゃん?」

 ジジはいたずらっ子のように剣士サキの顔を覗き込む。


「バグは、どんな場合でも同じ扱いにしないと、線引きが難しいんだ。だって、重要だと思う事は人によって違うんだよ。感じ方が違うと言えば良いのかな? 倒した怪物分のポイントが付かないのと同じくらい、ラス・ボスの目の色にこだわるプレイヤーがいても不思議ではないんだよ」

 ジジは、剣士サキの返事をまたずに、また闘技場の壁を見つめる。


「だから、運営側はその部分を非常に気にするんだよね」

 ジジは、足元の石をちょんと蹴る。


「ふーん、私はどっちでも良いけどね。まあ、人によって好き嫌いや見てる部分が違うのは分かるけど」

 剣士サキはまだ腑に落ちない、と言った体で話を続ける。


「例えば、男の人は女の人を見る時に、一番最初は胸なんでしょう? 剣士ジジさん」

 今度は、剣士サキがジジの顔をにやにやしながら覗き込む。


「え!」

 ジジは、剣士サキの一言に一瞬怯む。


「でもね、女の人は最初は服装とお化粧を見るのよ……、まあ時々は凄い人の胸は見ちゃう事もあるけどね、それは憧れと羨望の意味でね」


「えへへ、まあ剣士サキさんの仰る例は極端だけど、正しいかな」

 メアリーさんの豊満な胸につられて、剣士の初級者コースをサボって魔導師の初級者コースについて行った剣士ジジは、心が痛い。


「まあ、そういう訳だからさ(何がそういう訳だ?)、運営側としては影響度や種類に関わらず不具合と認定出来る物は全て潰したいんだよ」

 話を強引に元に戻そうと必死なジジ。


「へー、でもそれは少し過剰な気がするわよね。ちゃんと基準があれば、その基準に照らしてバグを直す・直さないをハッキリさせれば良いのよきっと」

 剣を握る時に掌を守るピンクのワンポイントが入ったグローブをはめた手を、口元に当てながら、剣士サキは答えた。


 (良し、良し、話がバグの話に戻った)


「例えば、プレイヤーのパーソナル情報に影響を与える種類のバグは直すけど、それ以外の見栄えの部分は許容してもらうとかね」


 剣士サキの視線が、スナイパーのように遠くにいるメアリーさんにロックオンする。


「さっき、剣士ジジが首ったけになってた巨乳魔導師さんが、プログラムのバグで貧乳に見えたとしても、それは許容されるバグ、とかね」

 剣士サキの剣士ジジを見る目が、冷徹なモノになっているのを、剣士ジジはひしひしと感じた。


「うへー。剣士サキさん。さっきはゴメンよぅ。もうあんな事はしないから、良い加減に許してよ」

 チョットだけ涙目になって、剣士サキに必死に謝る剣士ジジの姿は哀愁を感じさせるものだった。


「ウフフ、剣士ジジさん。もう許してあげるわ。でも二度目は無いわよ……」

 剣士サキはニコヤカな笑顔をジジに見せるが、目は笑っていなかった。


「さあ、取り敢えず指導員サムさんに初心者オッケーなパーティを紹介してもらいましょう!」

剣士ジジの涙目を見て、少し苛めすぎたかな? と反省しつつ新しい冒険に胸を弾ませるサキであった。

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