第79話 剣士の実力?

「サキさーん! どう? だいぶ上達したみたいだけど、初級者同士のパーティに参加させてもらえそうかな?」


 僕は、さっきやっと三匹目の小動物を倒して、経験値を100の大台に上げたので、サキさんの所に報告がてらに行った。


「剣士ジジさん。お疲れ様です。最初は変な女性に引っかかってしまったみたいだけど?」


 サキさんは、僕の顔をなめるように見ながら、少し冷たい視線をなげかけてくる。


「やっぱり、剣士の道に戻って来たのね」


 うわぁー、やっぱりキツイ皮肉が飛んで来た。まあ、自分が悪いのだから仕方ないのだけれどね。


「剣士サキ、さっきはゴメンなさい。でも、魔法による回復呪文は知っておいて損は無いよ。あ、決して言い訳をしている訳じゃあないからね」

 でも、これはどう見ても言い訳にしか見えないか……


「剣士サキ、僕も経験値を100の大台に乗せたので、そろそろパーティに参加しようかな――」

 と、言いかけて、サキさんの経験値を見ると、既に10,000の大台に乗っていた。技術レベルもさっきまでレベル2だったのに、既にレベル3になっている。


「えー、すごいじゃないか、剣士サキ!」


「ありがとう、剣士ジジさん。やっとさっき経験値が10,000の大台に乗ったわ。これなら初心者パーティでも足を引っ張らずに済むかしら?」


 サキさんは嬉しそうにほほ笑む。そして、半眼の状態になって僕のステータスを盗み見る振りをする。


「ところで、剣士ジジは何処まで成長したのかな?」


「サキさんー、見たらわかるんじゃない。さっきやっと100の大台に乗ったよ。初心者パーティでも、思いっきり足を引っ張る、かな……」


 ちょっと下を向いて、反省のポーズをサキさんに示す。


「仕方ないわねー。でも大丈夫よ、ジジさんは私が守ってあげるから。だから気にしなくても良いわよ」


 サキさんは、メアリーさん程ではないが立派な胸を精一杯張って、その胸に彼女の手をとんとんと置いて、僕を安心させようとしてくれる。


「ありがとうね、剣士サキさん」僕はサキさんに向かって両手を合わせてお祈りのポーズをとる。


「ところで、初心者向けのパーティーって、誰に相談すれば良いのかなあ?」

 僕は、ポツリと言う。


「ジジさん、貴方の方が詳しいんじゃないの?」

 サキさんは、システムに詳しいだろうと思って僕に尋ねてきた。


「いやあ、システムに詳しいのとゲームの中身が詳しいのは別だからねえ。このゲームのグランド・デザイナーやシナリオライターなら別だけど、例えシステム側の人間であっても、基本的にゲームの内容は知らないんだ」


 僕はちょっと内輪話をしてしまう。これって本当はダメダメなんだろうなぁ。


「へー、そうなんだ。でも私の時の様に、ゲーム内の何処にでも移動できるのでしょう? 仮想世界の中の好きな場所に自由に動けるとしたら、楽しいじゃない。それに、システムの人は絶対にゲーム内では倒せない破壊不能オブジェクトなんでしょう?」


「それは誤解だよ。僕たちは、仮想世界の外の管理センターから指示を受けてその通りに動くだけだからね。だから、好きな場所に勝手に移動している訳じゃないんだよ。まあ、管理センターの操り人形みたいなものだよね」


「へー、そうなんだ。でも、破壊不能オブジェクトなんでしょう?」


「まあ、それは正しいけどさ。だからといって好き勝手は出来ないよね」


 僕は、闘技場の石を持ち上げて遠くに投げる。石は闘技場の壁に当たって、コーンと音が聞こえて来る。


「僕たちはメンテナンスが仕事だから、ゲームの中のキャラクター達に対しては、システム的に絶対の強さを与えられている。そりゃあそうだよね。いちいちレベル1層のラスボスにやられてたら、仕事にならないからね。だから、ここのレベル100層のファイナル・ラスボスと戦っても、絶対にやられないし、一瞬で倒す事が出来るはずだよ」


「でも、それはシステム管理者としてこの仮想世界にログインした時の話だよ――。その時は、ゲームなんか楽しんでないからね。システムのバグを探すのに必死だもん」


 僕は肩をすくめて両手を参ったのポーズにする。


「僕は又聞きなんだけど、この世界のレベル45層にいるラス・ボスにバグが発見された事があるんだ」

 僕はサキさんの耳元に近づいてひそひそ声で話し始めた。


「え? え、何それ?」

 サキさんが、興味深く聞いてきた。心なしか目が輝いている。少女漫画に出て来る星マークが彼女の目の中に見えるようだ。


「もうバグは修正されちゃってるらしいから、多分わからないと思うけどね。それにSNSでも話題になっていたから、もう秘密じゃないだろうし…… なんでも、ボスを右手側から見た時と左手側から見た時で、四つある目玉のうち右から二番目の目の色が違う様に見えたそうなんだ」


 僕は自分の指で目玉を示す。


「ウソー!そんなとこまで見てる人なんているの?」

 サキさんは口元に手を当てて心底ビックリしているようだ。


「うん、何でもその人は何十回も挑戦して、毎回倒されてたらしい。ある時、偶然に気がついたらしいんだ。色々なパターンでラス・ボスにやられてたんだろうね。毎回やられてる時に、なんとなくボスの目玉を見ていたんだろうね。そこで偶然気がついた、という事らしいんだ」


 僕は、また石を拾って、今度は思いっきり上に投げる。石は遥か上に上がってから落ちて来て、目の前の芝生に落ちてから少しだけ跳ねて草むらの中に消える。


「最初は、自分の見間違いだと思ってたんだって。そこから先は、その目ん玉の色を確認するために、追加でやられたそうだよ」


「えー? そのためにボスと戦って殺されちゃうの?」


「うん、それを確認してから、ヘルプデスクに連絡が来た。ただし、その噂はSNSで100万の『いいね』が付いたそうだ」


「それは、凄いわよね。私も『いいね』しちゃうかも」


「プログラム・チームは大騒ぎさ。直ぐに管理チームに連絡が来て、実際に45層のラス・ボスと戦ったそうだ」


「それで、それで?」

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