第78話 剣士と剣士

「はあ、いえ、一応彼女なんですが……」


 僕は頭を掻きながら、恥ずかしそうにサムさんに答えた。


「あ、ああ、失礼しました……まあ、そうですね。自分の彼女だからって、彼女のプレイヤーとしての過去まで知る必要はないですからね。それに、過去を知らないから、見知らぬ人とは言えませんものね」


 リーダのサムさんは、少しどもりながら自らに言い聞かせているようだった。


「チョット可愛いもので、意識してしまいました。イヤー、剣士ジジさんの彼女ですか。まあ、それはリアル上の話なので、ここでは二人の剣士ですからね。あまり、イチャイチャしないで下さいね」


 サムさん、ちょっとバツが悪そうな雰囲気で、一言僕に注意した? 感じだ。


「ハイ、あくまでも対等な剣士ですから」


「そうして下さい。それでお願いします。リアルの関係は仮想世界には持ち込まないで下さい…… あ! 別に意地悪で言っている訳では無いですよ。そこは誤解しないで下さいね」


 サムさんは、僕の顔を見て、真面目そうに言う。


「大丈夫です。サムさん。サムさんのご指摘は正しいです。僕も理解できます。仮想世界でプレイヤーとして来たからには、リアルの世界は切り離して考えるんですよね。それが、この世界でのお作法だと思ってます」


 僕は普通に頷きを返す。


「そうですね、まあその通りなのですが、現実として僕たちの体はリアルにあるわけで、リアルでの生活を無視出来ないですものね。正直、リアルの人間関係を持ち込んで、リアルに持ち帰るプレイヤーさんも結構いるんです。この初心者チームに来る人は、基本的にレベル1の初心者なので、みな平等にスタートなんですよ」


 そこで、軽くため息をつきながら、


「でもねえ、実際にはリアルの上下関係を持ち込むプレイヤーもいるんですよね。ここでは、自分が練習や狩猟で経験した結果として得られた数値が全てなんですよね。でもねえ、リアルの人間関係に縛られたプレイヤーさんは、そこら辺一切無視ですからね」


 多分僕がサムさんと同じくこの業界の人間だと思われているからなのだろう。僕に向かって、悲しそうな目をしながら、顔は笑っているというか、引きつっているというか、そんな状態で小声で言葉をしぼりだす。


「何でアイツよりオレのレベルが低いんだ! って言うクレームを入れられてもねえ…… 僕はボランティアで初級者のプレイヤーに技を教えてるだけで、そこから上達するのは能力と練習量だけですものねぇ。そこんとこ、勘違いされているプレイヤーさんも多いんですね」


 サムさんの愚痴モードのエンジンがかかって来た……


「なんか、最初から上位プレイヤーになる簡単な方法は無いか? とかね。金ならいくらでも出すからチートな能力を売ってくれとか、とか。僕も一応関係者ですけど、ゲームクリエイターやプログラマー側の人間ではないから、そんな裏技知らないし。

それに、もし知っててもそんなわがままなプレイヤーさんには『絶対に』教えたくは無いですよね」


 サムさんは僕に同意を求めるように、視線を投げて来る。ここで視線をそらしたらサムさんの心が折れてしまいそうだったので、軽く受け止める振りだけして作り笑いでお茶を濁す。


「そうですよね、サムさんの意見はごもっともだと思います。リアルと仮想世界は別として楽しんで欲しいですよね。リアルで上司と部下の関係とかは、仮想世界では無しですよね。あ、でもリアルの恋人関係は持ち込む人はいますね。すみません、コレからは気を付けます」


 僕は、そう言ってからサムさんに軽く頭をさげる。


「いやあ、剣士ジジさんと剣士サキさんは、色々な意味でドライじゃあ無いですか。

サキさんは、自分の事で精一杯だし、ジジさんはメアリーさんの毒牙にあっさり捕まっちゃうし」


 サムさん、今まで溜まっているモノが少しだけ吐き出せたようで、顔色が良くなって、笑い方が普通に戻って来た。しかも、皮肉も効いてるし……


「えー、サムさん、それは言わないで下さいよー。僕も反省して、こうやって剣士の補習授業を受けに来たんですから」


 僕は頭を掻きながら、サムさんを見る。


「そうですね。ジジさんは、素晴らしいです。いっ時の気の迷いで、魔道士の講習を受けても、チャント自分の立ち位置を忘れずに、こうやって戻ってきて剣士の練習をするのですからね。一応、コツは先程教えたように、システムに認識される様に、ややオーバーアクションを取ることを忘れずに。後は、ひたすら経験を積めば大丈夫ですよ。僕が保証します!」


 サムさん、元に戻ったようで僕に熱く語ってくれた。


「ありがとうございます、サムさん。チョット頑張ってみます」


 僕はサムさんにお礼を言って、周り右して自分の練習を再開する。


「うおー!」


 ビュン、ビュン。


 あ!本当だ。

 少し恥ずかしいくらいオーバーアクションを取ると、剣先が綺麗に回るんだ。


 コレで、少し練習用の小型の獲物たちを倒して……


 剣士ジジは、練習用に現れた小さな小動物に向かって自分の剣を大袈裟に振った。

 エイ!


 剣の残像が綺麗に小動物の腹の辺りに当たって、小動物は一瞬で複数のポリゴンに分解した。

 ビヨーン! パーン!


 システムからは、動物を倒した事と、それによるポイントゲットの通知がジジの仮想端末に送られてきた。

 ピポ! おめでとうございます。剣士ジジは小動物エナを倒したので、10ポイントをゲットしました!


 やったー! 初めて獲物をゲットしたぞ。凄いなあ、10ポイントもゲットしちゃった。もう少し頑張ったら、サキさんの所に行こうかな。

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