仮想世界でも、こんにちは

第77話 剣士の補習講義

……

　サキさん達は未だ剣士のレッスンを受けていた。

　サムさんの教え方が上手いのか、サキさんの運動神経が良いのか。既に経験値が2レベルも上がってる。さすがー、サキさん。

　真剣に練習しているサキさんの横顔って良いなあ。僕にはチョット無理かもね。

　あ、そうか僕も一応剣士なんだから、見様見真似で練習するかな。

　ふむふむ、腰を落として、獲物を見据えながら、獲物に向かって剣を振り降ろーす。

「とうっ！」

　パチパチ！

　サムさんが、僕の自主トレに気が付いて、僕の自主練習を見て拍手をしながらやってきた。

「どうでした、魔法の練習は？　メアリーさんの指導は厳しいでしょう。でも、魔法という物は、剣の技術と違って、心のコンディションに依存する場合が多いのです。

ですから、どんな状態でも魔法を出せるように、色々なシチュエーションを経験して自分の心を鍛えていくらしいですね」

　サムさんも指導者として魔法の練習でメアリーさんの練習方法を知っているようだ。

「今回、メアリーさんの誘惑に負けてしまいましたが、いつまでもその状態ではだめですよ。ジジさん」

　サムさんは、僕がいきなり脱落したのにも関わらず、温かい目で僕を見てくれるようだった。

「さあさあ、それでは剣士の練習もしましょうか？」

「ハイ、サムさん、それでは僕も今から参加しますので、お願いします」

「承知しました。でも、みんなは既に先の講義に進んでいるから、補習という感じですね。ポイントは、システムが認識できるように、予備動作を大きくしてあげる事です。要するに、チョットオーバーアクション気味に剣を振るのです。すると、システム側がその予備動作を認識して剣の作用点を計算してくれますから、後はその方向に振り下ろせば良いのです」

　流石指導者、システムの中身をよくわかってらっしゃる、と僕は思った。

「良いですか？　決して自分の力任せに振ってはダメですよ。ちゃんとシステムがアシストしてくれるので、その流れに乗るのです。昔は夢だった電動アシスト付き自転車って有るじゃないですか。あの要領です。自分で力任せに漕がなくても、システムのアシストに身を任せれば、どんな坂でもラクラク登れちゃうでしょ？」

　おお、凄い具体的でよくわかる例だ、これは僕もこんど説明に使おう。

「まるで自分が最強の剣士の様に振る舞うのですよ。システムが、コイツ強いんじゃないか？　と思えば強くしてくれます。ヘッドセットは脳の活性状態をモニターしているので、そのセンサーにアピールするつもりですね」

「サムさん、なんかSEみたいな言い回しですね？　リアルのお仕事もそんな感じ何ですか？」

「イヤあ、バレちゃいましたか？　普段は、とある会社のシステムエンジニアなんです。理由があって、それ以上はお教えできませんが」

「まさかと思いますが、HW管理課のユウさんていう方ご存知ないですよね？」

「え？　ユウさんをご存知なんですか？　まさか、あなたもお仲間ですか？」

「イヤ、ユウさんは僕の大学時代の先輩なんです。とある会社で働いていると言ってましたから、もしかしたら、と思って」

（まあ、嘘は言ってないよな。まだ状況が飲み込めてない状態で、全てを言っちゃう訳には行かないもんね。）

「どうしてもエンジニアのクセが抜けなくて、ついつい技術的な方向に行っちゃうんです。メアリーさんに言わせれば、理屈っぽ過ぎるんだそうです。感覚から入る人には、合わない様ですね。直ぐに出てっちゃうんですね」

「あー、僕的には、凄く分かりやすいです。大丈夫です。そう言えば、僕と一緒に来たサキさんなんかもうレベル3じゃ無いですか。教え方が上手いからですよ」

「どうも有難うございます。そう言って頂けると、嬉しいです。でも、剣士サキさんの上達は僕のチカラだけじゃ無いですよ。あの剣士サキさん、どこか他の仮想世界でトッププレイヤーだったんじゃないですか？　システムを使いこなす方法を良く分かってますね」

　サムさんは、サキさんを見ながら僕に聞いて来る。流石に前の世界っでは超一流のスナイパーでしただなんて口が滑っても言えないしなあ。

「普通は、システムの起動タイミングの感覚を掴むのには少し時間がかかるんですけどね。彼女あっと言う間に身に付けましたもの」

「あ……、そ、そうかも。僕も彼女の過去はあまり知らないんですけど」

「え？　剣士サキさんって、剣士ジジさんの彼女さんじゃ無いんですか？」