第74話 お試しメンバーですけど良いですか?

 お店を出て、前の通りをしばらく行くと、大きな広場が現れた。

 其処には、大きな時計塔が立っていた。


 そこを抜けてさらに進むと、古ぼけたいかにも使い古した感じの闘技場が現れた。


***


 先ほどの飲み屋で、お店のマスターが教えてくれたように、飲み屋の壁には色々な掲示物が貼ってあった。


 その殆どが、チームを結成するのでメンバーを募集しています、の類いの物だった。

 ただし、募集するメンバーにはやはり条件が付いている物が大部分だ。


 曰く、レベル10の怪物と一対一で戦える戦闘力がある。

 曰く、体力を半分削られても一日で回復できる魔法が使える。

 曰く、レベル15の怪物の破壊力に3回は耐える防御力を持つ。


 と言った、既にある程度実戦経験を積んだプレイヤーをメンバーとして募集しているものだ。まあ、俗に言う『経験者求む』というヤツだ。


 まだ狩りもした事もない、ログインしたての超初心者を仲間に加えようなどという物好きなチームはないようだった。


 開示物を一通り見て、ガッカリして別の店に行こうとした、まさにその時、掲示物の一枚が剥がれ落ちた。


 すると、その落ちた掲示板物に隠れていた一枚の掲示物にジジの目が止まった。


「サキさん! これはどうだい?」


 その掲示物には、こう買いてあった。


『誰でも良いから、参加して下さい。

当方、初心者大歓迎!』

『時計等の向こうの古びた闘技場で毎日稽古をしています。冷やかしでも大丈夫です。レベル1でもバカにしません。』


「あら! こんなチーム、本当にあるのね。やはり最初はソロプレイヤーでレベルを上げなければダメかなと思っていたのだけれど……。ダメ元で行ってみましょう? 剣士ジジさん」


「そうだね、剣士サキさん。ダメ元で行ってみよう!」


僕とサキさんは、オーダーした飲み物を飲み干して、店長にお礼を言って店から出て行った。


「毎度ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております」


 店長の丁寧な言葉が店から聞こえてきた。まるで接客マニュアルを棒読みしているようだった。


――やっぱりAIは味気ないなあ。――


***


「え? どうしたの、ジジさん」


「イヤ、さっきの飲み屋の店長さん。AI管理のNPCだと思うけど、人間味がないなあ、と思ったんだ」


「そりゃあそうよ、情報を伝達するだけならば、ある意味ドライな方が気が楽だしね。必要な情報だけを入手出来るからね」


「まあ確かにそうなんだけどね。必要な情報以外の、変な情報を追加するとプレイヤーさんを惑わすだけだからね」


「そうよ。必要な情報を最短で入手して、自分で解釈して次のポイントに進んで行く。これがPRGゲームでしょ?」

剣士サキは、ジジの方を向きながらあきらめ顔で言う。


「仮想ゲームの場合は、それがもう少し大掛かりになって、体も動かしてスキルも上げなきゃいけないのですもの。やはり、ゲームに没頭しちゃう気持ち、分かるわ」


「ふーん、そんなもんかな」


「ジジさんは、直ぐにそのゲームの背後に控えている人達の事を考えちゃうから、楽しめないのよきっと」

 剣士サキは人差し指を立ててジジに向かって左右に軽く振る。


「今回は特別にお許しを頂いているのでしょ? それならば、少しぐらい楽しんでもバチは当たらないわよきっと」


「そうかなー? そうだよね。チョットぐらいなら、良いかな。プレイヤー側の気持ちを理解するには、やはり楽しまないとダメだよね。サキさんは良い事言うね」

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