第73話 NPCの中身はAI?

「こんにちわー!」


 サキさんが勢い良く第一層の町にある飲み屋に入る。僕はその後にのそのそと付いていき、ボソリと挨拶をする。

「こ、こんにちわ」


「いらっしゃいませ……」

 無表情に、飲み屋の店長らしき人があいさつする。

 顔は愛想笑いをしているが、心から笑っている感じではない。俗に、目が笑っていない、というやつだ。


 目を見た瞬間になんとなく分かった。あ!そうか、そういう事なのかな。


 AIに管理されたNPCの動作は、通常の対応を一通りこなすだけだ。

 確かに、対応する相手によって、数百万の組み合わせがあるので、そとから見ていると普通の人間の様に見える。


 しかし、毎日同じプレイヤーが来ていると多分ばれてしまうだろう。

 だって同じプレイヤーには毎回同じ動きしか出来ないからだ。

 でもそれは仕方ない。だって、AIはプレイヤーに最も適した対応をするようにプログラムされているからだ。

 最近は、経験則も反映するディープラーニングという手法を使ってその能力に磨きをかけているけど、ますますその人好みの動きしかしなくなる。


 だって、お店のマスターだって体調の良い時と悪い時があるじゃないか。

 マスターの体調や天気によっては、同じお客さんに対する対応が100%じゃない時もあるでしょう、もしもマスターが人間だったらさ。


 場合によっては、お客さんの方が気を使って、マスター大丈夫?みたいな事も現実にはあるじゃないか。

 でも、この仮想世界では、NPCは絶対に体調を崩さないし、プレイヤーの為に最高のパフォーマンスを出すようにAIに管理されているんだよ。


「どうしたの、剣士ジジ?」


 サキさんが不思議そうに聞いてきた。

 僕が、お店の店長を見て、ぼーっと考え事をしていたからだ。


「うん、いや、何でもない。ここのマスターは、NPCだね」


 僕はサキさんに近づいて、コッソリとささやいた。


「うん、そうみたいね。銃の世界の時のマスターとは違うわね。前の世界のマスターは、人間味があったものね」

 サキさんも、僕の耳にささやき返した。


「すみません、私達お試しプレイヤーなんです。どこか、この辺りで新しいメンバーを募集しているチームとかご存知ないでしょうか?」


 マスターは、ニコニコしながら答えた。

「お飲み物は、何にしますか?」


「あ! そうですね。お店で尋ね事をするなら、最初に注文しないとダメですよね」

 サキさんは、そう言いながら飲み物を注文した。


「私は、レモネードにします。剣士ジジは、何にする?」


「あ、僕はジンジャエールかな」


「毎度、ご注文ありがとうございます。レモネード、ワン。ジンジャエール、ワンですね」

 そして一瞬の間を開けてからマスターは口を開く。


「お嬢様、先ほどのご質問ですけど。この店の奥の壁に、チーム募集の掲示板があるから、その掲示板を見ると良いですよ」

 そう言って、マスターはオーダーの飲み物を準備しながら、奥の方を指差す。


「チームによっては、お試しプレイヤーや初心者クラスの人でもメンバーにしてくれる教育主体のチームもあると思います。そのチームが何処で訓練しているかも掲示板に乗っているから、掲示板に書いてある場所に行ってみると良いでしょう。私には、この程度しか情報を提供できませんが、ぜひ頑張ってくださいね。はい、レモネードとジンジャエールです」

 マスターはそう言って飲み物を二人の前にソッと置いた。


 お店の店長さんは、最後に、の処で優しく微笑んだけど、やっぱり目が笑っていなかった。


 そうか、僕達みたいに、初めて来たお客さんには、ディープラーニングなんか意味がないし、プレイヤーの個人情報も未知だから、物凄いぶっきらぼうにならざるを得ないんだ。


 まあ、人見知りの店長さん、ていう感じかな。でも、NPCの中身が運営管理のメンバーなら、目が笑っていないという事はありえないな。だから、やっぱりこのNPCはAI管理によるものなんだろう。


 プレイヤーになってみると、管理側の動きが良く見えるようになるんだなあー。でも、これを人に話すのはダメダメだけどね。





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