第71話 二人でログイン

 ここは何処だろう?


 あー、そうか、思い出した。確か、エッチな部屋の作りのネットカフェからVRMMOにログインしたんだ。


 今までは、管理する側の人間としてプレイヤーさんとは別の立場からログインしてたけど、そうかー今日はプレイヤーなんだ。ログインしたのは良いけど、ここはまだゲーム世界じゃ無いよなー?


「ジローさん、どうしたの? 何をウロウロしているの」


「あ! 愛ちゃん、僕ってプレイヤー初めてだからどうして良いのかわからないんだ。ここは、先輩としてゲームに参加する為の設定方法を教えてくれるかな?」


「はい、ジローさん承知しました。それでは私が先輩として、ゲーム設定のイロハから、手取り足取り教えてあげますね」


 愛ちゃんは、少し胸を張って僕に軽くウインンクをする。


「やったー、愛ちゃんに手取り足取りしてもらえるんだ」


「ジローさん、それは言葉のアヤです。口でしか説明しませんよ! ジローさんの方がパソコンの使い方は慣れてるでしょ?」


「えー、だって、こんなゲームに進む為の部屋なんか来た事ないから、全くの初心者だよ。ほら、背中の後ろには初心者マークとお試しログイン中マークも付けちゃうし」


 ジローはそう言いながら、背中にマークを付ける仕草をする。


「ジローさんたら、甘えん坊なんだからー。仕方ありませんね。それでは一回だけ特別に手取り足取りしてあげますね」


 愛ちゃんは、優しそうにそう言ってくれた。


「やったー! ありがとう愛ちゃん。ヤッパリ僕の見こんだ女の子だ」


 ジローは、年に似合わずに少しジャンプして嬉しさを体で表現する。


「それではジローさん、最初に名前を決めましょう。ジローさんはどんな名前にしますか?」


「えー? どうしようかな。プレイヤー名だよね? やはり本名じゃマズイしなあ。

 と言っても、あまりかけ離れた名前を付けると呼ばれても反応出来ないし」


 ジローは、腕を組んで少し考えこんでしまう。


「どうしよう……うーん。そうだ、ジジ、とかどうかな?」


「えー何それ? でもジローさんが一生懸命考えた名前ならオッケーですよ。遠い異国の剣士の様な名前ですね」


「うーん、ジジ、ジジ、ジジ。何度も呼んでいると、不思議に馴染んできちゃう」


「うん! これで決定ですね! 剣士ジジ。わーカッコいい」


 愛ちゃんは嬉しそうに目を細める。


「それで、体型オプションや性別オプションはどうしますか?」


「えっ? 何それ」


「ええと、性別オプションは分かりますよね?」


「うん、男性とか女性とかの事だよね?」


「そうです。ゲーム上で自分が使うアバターの性別を選べるのですよ」


「何それ! だって、普通は自分と同じ性別を選ぶでしょう?」


「ジローさん。チッ、チッ、チッ」

 愛ちゃんは、人差し指を立てて、左右に小さく振る。


「ジローさんて、本当に普通の人なんですね。世の中には、身体は男性だけど心は女性の人もいるんですよ。それに、その逆の場合も。ゲーム世界だからと言っても、ほとんど自分の体と同じ動きが出来るのですもの、心と同じ性別で生活したいじゃないですか」


「そーか、そうだよね。そうやって肉体的なしがらみから解放されるんだね。それはやはり必要な事だよね」


「それに、肉体的にハンディキャップのある人や、病院のベッドで寝たきりの人や、そういう人達にとっても、この世界は何でもかなう夢の様な世界だと思うわ」


「うん。そうか、愛ちゃん良い事を言うね。どうしようかなー、女性にもなって見たいけど、多分動きがギコチナクなって、下手なおかまさんみたいになっちゃうから、男性で良いや」


「分かりました。それでは、性別オプションは、男性、と。後は体型オプションかな?」


「別に今の体型で良いよ」


「えっ? だって別人になれるんですよ? ジローさんはその体型が好きなのですか?」


「うーん、そりゃあ背が高くてスラリとした体型も良いけどさ。でもなんか周りの人を騙してるみたいで、嫌なんだよねよ」


「あ、だけど、パワーアップとかスピードアップはしたいよ。今の運動能力じゃあ、誰とも闘えないものね」


「偉いわ、ジローさん、イヤ、剣士ジジだったわね。そういう考え方、ワタシも嫌いじゃないかもね」


「じゃあ、体型オプションは、パワーとスピードのアップのみね、と」


「良し! これで設定は完了。さあ、これでいよいよ天空の城に出発よ! ジローさん」

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