第66話 天空の城

 地上はるか上空に浮いている巨大な城。全部で100の階層から成り立つ、究極の仮想世界。


 第一層から階層が上がるにつれて、必要な経験値が上がっていく。各層から上に上がるには、途中の迷宮にいる怪物を倒す必要がある。怪物の強さも各階層でだんだんと上がっていく。


 そのために、プレイヤーは各層で修行に励み自分の経験値を上げる。各プレイヤーには、剣技に秀でたもの、槍に秀でたもの、更に防御に優れたもの、治癒能力に優れたもの、と色々な能力が個別に与えられる。

 そのために、迷宮の怪物を倒すためには、個人の経験値に基づいたスキルレベルを上げる事も大事だが、別々のスキルを持つ者同士でチームを組んで戦った方が、単独で闘うよりはるかに有利になる。


 また、自分で働いて稼いだお金を使って、怪物の情報を事前に入手する事も出来る。


 だから、プレイヤーは、仮想世界でも働いて日々の糧を得ながら、弱い動物を倒して戦闘経験を上げつつ、強力なチームを作るために努力をしていた。


 初代の城では、一万人のプレイヤーがログアウト出来ずに、ゲーム内で体力がゼロになった瞬間に、リアルの肉体も失うという恐ろしい事故が起こった。


 それは、VRMMO( Virtual Reality Massively Multiplayer Online : 仮想現実大規模多人数オンライン )の基本システムを世界で最初に開発した、狂気の天才科学者による犯行だった。


 結局一人の英雄がゲームをクリアする事で残りのプレイヤーはログアウト出来た。しかしその間に多くの人命が失われてきた。


 それを防止するために、第三者機関として『セブンシスターズ』という非公式な監視機関が設けられた。


 そんな事があっても、RPG(Roll Playing Game)としての作品の出来は秀逸であったために、今でも多くのプレイヤーが訪れる。

 それに、第一層では本当の初心者でも気軽に楽しめるレベルなので、VRMMO初心者にとっては、お試しとしての絶好の場所になっている。


 そのため、たいていのプレイヤーは一度は訪れてみたい聖地のようになっている。

 僕、ジローと愛ちゃんは、明日の放課後に二人でその仮想ゲームに参加する約束をした。


 そうやって、これからの予定を立てたら、少しお腹もすいてきたので、僕はケーキの追加をオーダーした。


 こんどのウェイトレスさんは、バイトのお姉ちゃんらしく、はきはきとした返事で対応してくれた。今度は、僕も注意して、バイトのお姉ちゃんをじろじろ見る事は我慢した。


 おかげで、愛ちゃんの気分はすこぶる良さそうだった。


「ねえ、ジローさん、あたし達結婚したら、どんな家に住みたいですか? 私は、小さな庭のある、白い屋根のおうちが良いかなぁ」


 愛は、紅茶カップの縁を細くて綺麗な指でなぞりながら、自分の夢を語り始める。


「それでね、各部屋にあるネットワークのバックボーンにはover 10Gbyte/secの高速光回線にしましょうね。当然、WiFi は普通のWiFi-6 ではなくて最新のWiFi-7 という平均でも800MByte/secを超える規格の送信機を置くの。あ、それと、プロバイダーは必ず複数と契約しておいて、L3ルータを経由して家の中のネットワークに接続するの。そうすれば、どちらかのプロバイダーがダウンしても自動的にルーティング情報が切り替わって接続は切れないはずよ。そして、一番大事なのは、電源のバックアップシステムね。ネットワーク機器は、全て無停電電源装置から電源を供給するの。WiFiは、家庭内を網羅出来る最低台数でいいはずよ。停電の時はバッテリーの消耗は最低に抑える必要があるから余計な機器はつながないようにしないとね」


 愛は、自分の言葉にうっとりとする。


「ねえ愛ちゃん、それって、若い恋人同士の会話じゃあないんじゃないか?」


 ジローは、愛の夢物語が女子高生の夢になっていないような気がした。

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