第65話 新しい仮想世界

「へーえ、さすが詳しいですね。ジローさん」

 ジローの知識を聞いて少し驚く愛。


「そういうわけで、あの世界から突然姿を消した謎のプレイヤー、という感じになっちゃうかもですね」

 そう言って少し寂しそうにしながら、愛はケーキを口に運ぶ。


「それで、次のゲーム世界をどうするか? 何ですけど。実は、私、今人間関係に興味が湧いてきたんです。今までは、一匹オオカミとして孤独な世界を生きてきたのですけど、ジローさんと知り合ったり、高校でお友達が出来たりして、やっと一歩踏み出してみようかと思ってるのです」


 愛は自分の手をしばらく見つめてから、ジローに向き直る。


「だから、パーティを組めるゲームにしようかな? と考えているの。そういう意味では初心者みたいな者だもの。ジローさんも一緒に参加しましょ? ジローさんは、直ぐに参加出来なくなっちゃうんだから、少しの間は一緒にいましょうよ!」


 そう言って、ジローに微笑む愛。


「そうだね愛ちゃん、それが良いよ!」


 ジローは、そう答えながらケーキを食べ始めた。


「ジローさん! そこは、ケーキを食べるタイミンが早すぎです。私たちのこれからの作戦行動を練っていた所なのに、直ぐに食べ物に走ったらダメですよ。最後にジローさんが言った言葉が軽いものに感じちゃいます。ジローさん自身はそう思わなくても、ケーキが我慢できなくて、取り敢えず相槌を打った様にしか見えなくなりますよ」


 ケーキを口に運ぼうとしていたジローに、ケーキ用のフォークを向けて話す愛。


「あ、そうか。そうだよね。言われてみれば、そう思われちゃうか。ごめんね、愛ちゃん」


 ジローは、ケーキが刺さったままのフォークをお皿に戻す。


「ここはケーキじゃなくて、紅茶をゴクンとやってから、一呼吸置いてだよね」

「そうですね、ジローさん。同じ口にするのでも、飲み物なら違和感無いですね。さすが、私の未来の旦那さまですね! 飲み込みが早いです。グッドジョブ!」


 そう言って、愛はジローに親指を突き出す。


「愛ちゃんに褒められると、なんか嬉しくなっちゃうなぁ」


 ジローは紅茶をゴクゴクと飲みだす。


「それで、どんなパーティに参加する? 僕もお試しで参加するからね」


「そうですね……、やはりファンタジー物でしょうか? 剣や魔法を組み合わせて、敵を倒して。少しづつレベルアップする。アレでしょうか? どう思います? ジローさん」


「そうだねー、それが良いかもね。ただし、あまりグループの結束を求めるチームは危険かもね。ある程度ゆるい方が良いかも。ほら、ゲームよりオフ会主導になるチームもあるからね」


「そうですよね。それもあって、実は今まで乗り気ではなかったのです。でも、最初はジローさんも一緒なら大丈夫かな? と思えるようになりました。本当は女性が多いパーティが良いんですけど、なかなか無いんですよね」


「そうだねえ。あったとしても、女性の場合は既にリアルで仲良しさんな場合が多いからなあ。ゲーム世界だけ仲間を築くのは意外に大変かもだね。まあ、リアル世界でも同じように友達を作るのは大変だからなー」


 紅茶のカップを置いて、腕を組みながら悩むジロー。


「とりあえず、一番大きなゲームに参加してみて、募集中のパーティに参加するか、お試しメンバーだけでパーティを作ってみるのもアリだよね。みんなのレベルが同じなら、変な上下関係も無いしね。その内、僕は抜けなくちゃあいけないけどね。それまでに、気の合う仲間を探すのが良いかもだね」


 さっき置いたケーキをやっと口に運ぶジロー。


「それじゃあ、お試しでプレイするのは、あの天空の城のゲームかな?」

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