第63話 ケーキ屋さんの会話

 ここのケーキ、本当に美味しいんだよ! テイクアウトも良いし、イートインも出来るんだ。それに紅茶も抜群なんだ。


「グイーン」


 自動扉が開いたと同時に、お店の中から可愛い店員さんの元気な声がする。


「いらっしゃいませー! 今日はお持ち帰りですか? それとも、こちらでお召し上がりになりますか?」


「えーと、両方でお願いします。愛ちゃんのお兄さんにも、お土産あった方が良いよね。あ! 禁煙席で二人ね」


「大丈夫です。ここは全席禁煙ですから」

 店員さんはにこやかに答えてくれる。


「窓側の席になさりますか? それとも店の奥の席になさりますか?」


 店員さんは、僕達2人を優しい眼差しで見ながら聞いてくる。


「どうする、愛ちゃん? 明るい窓際に座るかい?」

「そうですね、ジローさん。窓際にしましょうか。明るい方が、ケーキも美味しく見えますものね」


「僕としては、愛ちゃんの可愛い顔が良く見える窓際がいいなあ」

「またぁ、ジローさん。お世辞を言っても何も出ませんよ」

 そう言いながら、二人は窓際の明るい席に腰かけた。


「本日はご来店頂きありがとうございます。お決まりになりましたら、こちらのベルを押して下さいね」


 そう言いながら、美人でスタイルの良いウェイトレスのお姉さんはお水とメニューの冊子を二冊置いて去っていった。


「ジローさん、鼻の下伸びてますよ!」

「え? まさか!」

 ジローは手で鼻の下を触った。


「ウソです。でも、今の驚き方は何か隠していると思われちゃいますよ」

「ハイ! 以後気を付けます」


「素直でよろしい! それでは、何を食べますか? 私はケーキセットかな。このミックスケーキで、飲み物はストレートティーで」

「僕もケーキセットですね。スペシャルショートケーキとレモンティー! じゃあ、ウェイトレスさん呼んじゃうね」


 ジローはそう言いながらベルを押す。


 プチ!


 ピンポーン!

 店内に軽やかな呼び出し音が響く。


「ハイ、お待たせしました。お決まりになりましたか?」


 今回のウェイトレスさんは、ピンクフレームのメガネをかけた少し年上のお姉さん。髪の毛は後ろでまとめて束ねている。


「ハイ、承知いたしました、それでは少々お待ちくださいね」


 そう言って、メニューを持って下がっていった。


「あ! 愛ちゃん。メガネのフレームがピンク色だね。とても良く似合っているよ」

「こら! ジローさん、遅いっ! 女の子は、そういうところをキチンと見てくれる人が好きなの」


「うー、ゴメンね愛ちゃん」

「直ぐに謝ってくれたから、今回は許してあげるわね、ジローさん」


「愛ちゃんのそういう心の広さが好きだなあー」

「褒めても何も出ませんよ、ジローさん」


 ここは、愛ちゃんの可愛い服とかも褒めた方が良いのかな? それとも、ここで褒めるとまた怒られちゃうかな? ジローは、一瞬考えた。


「ジローさん、今、何か考えてたでしょ? 今度は少し年上のお姉さんのこと?」

「ち、違うよ! 愛ちゃんの服綺麗だなあって思ったから、チョット遅いけど言おうかどうか迷ってたんだ」


「アラ! ありがとう。いいのよ、少しぐらい後でも。褒めてくれるのなら、大丈夫よ。女の子はそういうの嬉しいんだから」


「でも、愛ちゃんの前では、全部読まれちゃうなあー」

「だって、こう見えても一流のスナイパーだったんだから。人間観察は得意よ。ただ人間関係を築くのは苦手だけどね」


 そう言いながら、愛は店内を見渡す。


「例えば……、ほらあそこの席で一人でケーキを食べてるオジさん。あの人は、今日は会社で外回りに行くと言って出てきたけど、外回りの仕事が思いのほか早く終わったので、ここでお茶してる、感じかな?」


「えー? 何でそこまでわかるの?」


「だって、あのおじさんが持っている大きな紙袋、大きさの割には中身が入っていないようだもの。袋には会社名まで印刷されているのに、中身のない大きな紙袋を持って歩くなんて仕事終わりとしか思えないわ」


 そう言って、愛ちゃんはおじさんに見えないように、おじさんが持っている紙袋を指さす。


「さらに付け加えると、おじさんの靴は丁寧にワックスがかかっているのに、靴底がかなり減っているのが、ここから見ても分かるもの。これは、毎日通勤で長時間歩いているか、外回りの仕事の人かどちらかだわよね。毎日通勤で長時間歩いていたら、あのお腹にはならないから、そうなると結論は外回りの仕事の人かな、って思ったの」


「へー、そうか、細かい観測と簡単な推理だね。ヤッパリ、スナイパーは愛ちゃんに向いているのかなあ? でも、僕はもうあのゲームには戻れないからなあー」


 ジローは、愛ちゃんの探偵並みの推理力に関心した。


「ああ、そうだ。今度新しい部署に移るのだけど、その前にお試しプレイヤーとしていくつかの仮想ゲームに参加出来る事になったんだ。本格的に仕事に入ったら、絶対に出来ないから、何箇所か回る予定だけど、愛ちゃんも一緒にどう?」


「えー! それは楽しそうね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る