第61話 管理する側とされる側
とりあえず、五課の課長さんの了承を得られたので、週末は完全に休める。よし、これで、サキさんとのデートの支障はないぞ。
管理のローテーションに入ると、親の死に目の時しか休めないんだもの。日本のサラリーマンて、なんでこんなに会社に尽くすんだろうね?
一説には、昔の武家社会の影響で、武士が毎日、お城に登城する名残りだというけれど。でも、内の家系は武士じゃあないし。 そんなに会社に尽くしても、今回のようにトカゲのしっぽ切りの犠牲にされる事もあるのにね。もっと、社員は会社に文句を言ってもいいと思うけどさ。
それよりも、何よりも、大事な事は、課長から仮想世界のゲームに参加するお許しが出た事だ。
ゲームを運用する側の人間が、ゲームに参加する側にはなれない。それは、絶対の不文律だ。
だって、あらゆる技を使い放題、最強(無限)の体力、そして最後は無制限のやり直し、が自由に出来るんだ。もしも、対個人戦で、相手がそんな状態だったら、戦っても無意味だ。怪物を倒してランキングを競うゲームでは、常にランキング1位だ。
俗に言う、絶対王者という奴だ。
そんな奴がいるゲームに参加するプレイヤーは皆無だろう? だから、僕たちはゲームには参加出来ない。僕は、その覚悟を決めてこの世界に飛び込んだんだ。
あくまで、裏方、黒子に徹するというつもりでいたんだ。だけど、多くのプレイヤーの楽しそうなところを間近で見ていると、正直なところ、やはり時々は参加したくなる誘惑が自分の中に湧いてくる。
でも、ひょんな事から、期間限定で機能制限付きのお試しプレイヤーとしてなら参加していいという許可がもらえた。これは、使わない手はない! それに、サキさんも新しいゲーム世界に移った方が、彼女のトラウマ解消のキッカケになるかもしれないし。
良し! 週末のデートでは、その話をサキさんとしよう。
* * *
うーん、今日は朝早く目が覚めちゃった。実は前の日は興奮して、なかなか眠れなかったんだ。だって、人生初のおデートが待っているんだもんね。下着は全部おニューのおろしたて。女の子が、アニメとかで使う『勝負下着』というヤツだ。
いや、相手は女子高生だし、今日はケーキを食べに行くだけだから、流石にいきなりのエッチ展開はほぼ100%ないと思う。だけど、初めてのデートにかける心意気としては僕が出来る唯一の気持ちだ。
ここまで気合が入っているなんて、僕の人生の中で初めての事だろう。
中学や高校では、いつもカッコいい奴がモテるんだもの。女の子だって、色々な好みがあるはずだから、僕みたいな男子中学生や高校生を好きになってくれる女の子がいたっていいはずだ、と思っていたんだ。でも、なぜかそういう女の子は僕の前に現れなかった。大学に入ると、中学や高校のようにホームルームの時間は無いし、クラス全員で行動するこももなくなるから、女子と会話するチャンスなんか、限りなく0に近かった。
大学生のコンパとかがあっても、僕は誘われることはないし。そうこうしている間に、あっという間に会社員さ。会社に入ったら、就業時間が不規則なローテーション制だし、秘密は隠さなくちゃいけないし。
ああ、僕はこのまま一生一人で生きていくんだ、と悲観していたんだけど。神様は、僕を見捨てなかった。このまま、独身で死ぬのはかわいそうだと思ってくれたみたいだ。
あろうことか、現役女子高生とお友達になっただけではなく、もしかしたら、結婚も出来るかもしれないという、おまけまで付いてきた。これからは、アパートの前の道にある道祖伸さんには毎日お供えしないとだめだよね。
おっといけない、ぼーっとしてたら時間になっちゃう。初めてのデートで遅刻したら人生終わっちゃうから、1時間前には待ち合わせの場所に着かなくちゃあね。
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