第59話 ジローの決断

 ジローは、六課の課長から移動の話を聞いた後で、本社のお洒落なカフェテリアでケーキセットを食べながらため息をついていた。

 ここで待機して、後で五課の課長と顔合わせする事になっているのだ。


 はあー、遂に異動かー。


 まあ仕方ないよな。あそこまで派手にやったら、もう元の世界には帰れないよなぁ。


 うーん、そうだよなあ。


 そうやって、何度も、何度も、自分自身を無理に納得させるしかなかった。はあー、とりあえず、サキさんにはメールを打っておこうか。ジローは、少しでも気分を紛らわせるためと、この件に無関係ではなくなってしまった彼女にも連絡する方がいいかな?と考えた。


 ……


 to : サキさん

 from : ジロー

 subject : 移動になっちゃいました


 今日は、サキさん。

 ジローです。


 実はショッキングな報告です。

 この間のトラブルで、僕はもう「銃の世界」の管理者チームから外されて、別のチームに移動になる予定です。


 内緒ですが、プレイヤーが一万人規模の大型ゲームの管理者になるらしいです。


 詳細は、また今度お知らせします。

 それでは、取り急ぎご連絡まで。


 ジローより。


 ……


 良し、これで送信だ。

 ぴっ!


 しかし困ったなあ。千人程度ならまだしも、一万人のプレイヤー相手なんて、絶対無理だよー。普通のプレイヤーさんと親しくなんか慣れないだろうなあ。向こうも覚えきれないだろうし、こっちもプレイヤーさん一人一人を覚えていられないなあ。


 本物のNPCなら、AIにより管理されてるから全員の会話を覚えていられるだろうけど、僕の頭では無理だなあ。性能の悪いNPCだと思われちゃうのかしら?

 それとも、最初からボケたキャラクターで接すれば良いのかな?

 プレイヤーとしてどんな人がいるのか、噂のチャンネルで事前にチェックしておかないと。


 あ、『噂のチャンネル』というのは、仮想世界のゲームに関する、非公式なSNSなんだけど、フォロワー数が全世界で数千万人と言われているんだ。

 使用言語が『日本語』のカテゴリーだけでも、軽く百万人だってさ。あらゆるジャンルのゲーム世界に関する情報が集まってくるらしい。


 だから、正しい情報もあれば、当然怪しい情報もあるんだ。

 僕達の会社にも、このチャンネルでコッソリと情報を発信している人がいるらしいんだよね。

 僕が見ても、あ! これは明らかに社員がリークしてるだろう、と思えるものがあるからね。


 ぴろ!


 あ、サキさんからメールだ!


 なになに、うーん、そうか。そうだよなあ。いきなり僕がいなくなったら、彼女も怖いだろうなあ。精神的なストレスは簡単には消えないもの。


 良し。返事を打っておこう。これで週末は、サキさんと、おデートだー!


 サキさんありがとう、週末に会いましょう!


 即、返信しちゃおうー。

 ぴっ!


 しかし、課長も何気なく凄いことを言ってたような気がする。僕と入れ違いに出て行く人は、神経が参っちゃった人だと言ってた。

 ……って事は、僕も神経参っちゃう? という事か。


 人間関係のストレス耐性は、人によって違うけどさー、僕だって何でもかんでもオッケーじゃないんだけどなあ。なんかー、課長の口車にうまく乗せられた気がするんだよね。


 まあ、とりあえずは、週末のデートを目標に頑張るぞー!

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