第57話 プレイヤー一万人
「昨日はご苦労様だったな。会社の変な派閥争いに巻き込まれたみたいだ」
課長はそう言いながら、僕の顔を見た。結構ぶっきらぼうだけど、話をキチンと聞いてくれるので、僕的には嫌いじゃない課長さんだ。
「ところで、今後の仕事に関してなんだがな」
いつもはぶっきらぼうな課長の口調が今日はチョット重い。僕に椅子に座るように手で合図する。
「取り敢えず、プレイヤーさんと直接会話してしまったのだから『銃の世界』にはもう戻れない、という事は理解できるよな」
意を決したように、ゆっくりと話し始める。課長も僕の向かい側の椅子に座る。
「本来であれば、俺たち運用管理の人間は表には出てはいけない人間だからな。そのために、緊急対応チームが表立って行動するわけだ。ただ、今回の場合は事態が事態だから超法規的措置として許される事だ、と、俺も思う。もしも俺がお前と同じ立場だったら同じ事をやっていただろう」
課長、そこで話を切って会議室に来る途中にあった自販機で買ったコーヒを僕に勧める。
「だからこそ、今回の会社の対応に対して、セブンシスターズが動いたのだと思う。今回のセブンシスターズの対応は、会社の皆んなが納得している筈だ」
課長は、自分の分のコーヒーをごくりと一口飲む。
「ただ、これとそれは、話しが別だ。表に出てしまった黒子は、もう黒子にはなれない。それも、ジロー君なら理解出来るだろう?」
コーヒーカップを持ったまま、僕の方をじろりと見る。
「そうなると、君を『銃の世界』の管理担当者から外さざるを得ない。しかし、君も知っているようにこの部門は少人数で複数の仮想世界を見てるんだ。だから、一か所でも管理出来ない世界が出来てしまうとローテーションが回せないことになる。誰か特定の人間に負担がかかってしまうからね」
一緒に持ってきた書類をバサバサとめくる。
「一つの案として、君を運営管理から外す、という選択肢もある。ある方面からそういう種類の圧力もかかっているのを私は否定しない。素顔をプレイヤーにさらした社員は今後表に出られないように、システム管理やH/W管理にまわしたらどうだ? という意見だ」
書類の束を見てから、僕をじろりと見る。
「しかし、君のような人間には、これからもプレイヤーの面倒を見てほしい。なかなか、君みたいにプレイヤーに真摯に向き合うモチベーションを保てる人は少ないのだよ。プレイヤーは、わがままな人が多いから結構ストレスが溜まるだろう? なかなか、運営管理を長く続けたいという人で、適正がある人は意外に少ないんだ。だからこそ、俺としては(君がそうしたいなら、だが)君にこれからも運営管理を続けてほしいんだ」
今度は、立ち上がって部屋の中をうろつきだす。かと思ったら僕の方に向かって歩いて来る。
「そこで、上層部と掛け合って出した結論なんだが。君には運営管理第五課に移動してもらう事になった」
課長の大きな手が、僕の肩にかかる。
「えー! 運営管理五課っていったら、プレイヤーが常時一万人以上ログインしている我が社の稼ぎ頭の、あの仮想世界を管理しているところじゃあないですか。僕みたいなぺーぺーには務まりませんよ」
僕の肩を、軽くポンポンしながら課長は話し続ける。
「いや、君の能力は俺も十分評価している。今回の件も多少行き過ぎてはいたが、プレイヤーの事を考えたら正しい行動だよ。それに、一万人のプレイヤーが常時出入りしている仮想世界の中なら、君が紛れていても誰も気が付かないだろう?」
僕は怖くて課長の顔をまともに見られない。
「五課も今、優秀な人が少なくて困っているらしいんだ。そこで、五課で少しノイローゼ気味の課員を六課で引き取るから、代わりにジロー君を五課に回すという、やや強引なトレードを行う事で何とか決着をつける事が出来たんだ」
課長はまた歩き始めて、僕の対面に座りなおす。
「ノイローゼ気味の課員が六課の少し緩い現場で回復するのを待って、もしも回復したら、また元に戻すという荒業だ。ジロー君にとっても、五課の訓練と、六課の出来事のほとぼりを覚ますには良いだろう?」
そう言うと、課長は僕の方を見てニカリと笑った。
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