二人の世界

第55話 新しい一日の始まり

「ほえー、もうお腹一杯!」

 僕は、微妙に膨れたお腹をさすりながら思わず声を上げる。


 流石に、かつ丼とナポリタンのセットは、チョット食べすぎだったかも。しかも、かつ丼は、汁だくご飯大盛り。でも、こうやって美味しいご飯が食べられて満足だよ。


 今度、ここにサキさんを連れて来ちゃおうかな? でも、そしたら趣味が合わない、って振られちゃうかな? その時は、その時だよね。だって、彼女から告白されたこと事態が想定外だからね。


 さて、お腹も一杯になったからアパートに戻ってお風呂に入るか。


「おっちゃん、ご馳走様でしたー!」

「おう。また明日食べに来いな。ジローちゃんの食べっぷりは、見てて気持ちが良いからよ」


 おっちゃん、食べ終わった食器を片付けながら嬉しい事を言ってくれる。


「朝には、この間の常連組も来るだろうから、改めて礼を言っておけよ! ただし、口止めもしておけよ! せっかく辞めないで済んだんだものな」

「はーい、そうします。人の縁は大事ですよねー! それじゃあ、お休みなさい」


 ガラガラ、

 ピシャン。


 僕は、定食屋のおっちゃんにお礼をいってから、ボロくてガタガタするトビラを閉めた。未だに出入口が手動の扉なんて、この定食屋さんぐらいじゃないかな。


 * * *


 お腹が満たされると、人間何事も寛大になれると言うけど、本当だよね。定食屋さんからアパートまで、通りがかる人全ての人ににこやかに挨拶したくなるもんね。今なら、怪しい募金のおじさんが来ても、にこやかにお金を渡しちゃうだろうなあー。


 自分がどうやってアパートに着いたのか、実はほとんど記憶になかったんだ。いつのまにか、自宅で歯を磨いてた。お風呂も誰かが沸かしたみたいで、気がつくと湯船がしっかりと張ってあった。


 こんなに幸せなら、ゲームなんかしなくても人間生きていけるよねー。テレビも見たくないよー。もうこのまま寝てしまおうかな。


 でも、ベッドの横に置いておいた、スマホがチカチカして、メールが来ている事を教えてくれた。


 えー! 誰だ? 僕の幸せな時間を邪魔するのは。


 一つは、サキさんからでした。


 from :佐々木愛

 to :ジローさん

 今日はありがとう。

 今度は、リアルでいつ会えますか?

 美味しいケーキ屋さんに行きましょうね。

 それから、仮想世界でもまた会いましょう。

 それでは、おやすみなさい。

 チュッ!


 うわー、なんだ、この最後の『チュッ!』は。早くお風呂に入って興奮を抑えないと! 血圧が上がって、死んじゃうよ。


 そして、もう一つ。会社からでした。


 from :人事課

 to :運営管理六課 ジロー殿

 今月末で退職予定でしたが、その処理は取り消されました。

 明日以降も、通常の勤務を行ってください。

 以上、よろしくお願いいたします。


 え? まだあるの? これも、会社からだ。


 from :運営管理六課 課長

 to :ジローさん

 今回の君の働きは素晴らしかったです。ご苦労様でした。

 ただし、プレイヤーさんに顔を見せてしまったのはNGです。

 そこで、今後は「銃の世界」の管理業務から君を外します。

 明日は仮想世界にログインしないで、会社に出勤してください。

 明日以降から管理する、新しい仮想世界に関しての説明を行います。

 以上。

 追伸、それでは、明日会いましょう。


 僕は、三つ目のメールを見て少し暗い気分になりながら、お風呂に入った。

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