第54話 帰り道

「うわぁーい!」

 僕は、思わずステップを踏みながら歩いてしまった。


 一応これは、喜んでいい事なんだよなぁ。僕にも春がやって来たのかな。


 イキナリ、現役女子高生とお友達だよー。しかも、結婚を前提にお付き合いだよー。さらに、結構可愛いんだー。オマケに、皆んなが憧れのメガネ女子だよー。その上、オッパイも大きいよー(自己申告なので、未確認ですが)


 でも、マテマテ。うまい話にゃあ、裏があると言うしなぁ。


 サキさんのお兄さん、本気になったら怖いんだろうなあー。だって、『あの』泣く子も黙るセブンシスターズの一人だよ。

 さっきの雰囲気では、サキさん本人はお兄さんがセブンシスターズだなんて知らない感じだよな。


 それに、お兄さんは、僕が仮想世界のNPCの中の人になってる事は知らないだろうし。


 さらに付け加えると、サキさんが僕のパーソナル情報を盗み見た事も知らないんだろうなあ。


 その3つを知っているのは、僕だけなんだよね。

 これは、すごい事だけど、サキさんやお兄さんと会話する時に、秘密にし続けるのは、すごいプレッシャーになりそうだなぁー。


 今日の会話も、サキさんの独壇場だったものなあ。お兄さんも僕も、完全に振り回されてたよ。


 でも、色々心配してても仕方ない。だって、なるようにしかならないんだよ、人生なんて。努力は自分で出来る事だけど、運命や人生は自分でどうにか出来るわけではないもん。


 自分でできない事を悩んでも、何も始まらないからね。だから今日は『可愛い女子高生とお友達になれた』という事だけで良いじゃないか。


 それに、お兄さんのお陰で……、あ、定食屋のおっちゃんの口添えもあるから、定食屋のおっちゃんのお陰でもあるか。会社を辞めずに済んだし。

 今日は良かったね。という事で、夕飯は近所の定食屋さんでユックリ食べようかな。定食屋のおっちゃんに直接会ってお礼も言いたいしね。


 * * *


「おっちゃーん! 夕飯食べに来たよー」

 ぼくは定食屋さんの扉を開けながら大きな声でおっちゃんに声をかける。


「お、ジローちゃん、戻ってきたね。で、どうだいセブンは?」

 おっちゃんは、キッチンの奥から顔を出して答える。


「へ? セブンて、コンビニの?」

「違うよ! ジローちゃん何ボケてるの? ジローちゃんを助けてくれたでしょ? あっちのセブンだよ」


「ああ、あっちのセブンね。一応連絡が来たので、お礼を言っておきました」

「おお! それは良かった。アイツらが動いてくれなかったら、俺が怒鳴り込んでたぜ。俺が、あそのこ社長に超並列量子コンピュータを止めるぞ、と脅せば、一発だ!」


「イヤイヤ、おっちゃん! それは、恐喝になっちゃうよ」

「良いんだよ。あそこの超並列量子コンピュータは俺が動かしてやってるんだから、俺が何もしなければ、直ぐに止まるのさ。何もしないだけで、別に壊してないから、犯罪じゃないさ。人を不幸にする機械なんか必要ないぜ!」


 おっちゃん、コップと御品書きを僕の座っているテーブルに置きながら話を続ける。


「まあ、それはそれとして。ジローちゃんは、セブンのお陰で、これからも仮想世界でお仕事出来るんだろう?」

「はい、そうですね。もう、嬉しくって、嬉しくって」

 僕は嬉しそうに答える。


「ウンウン、そうだ、そうだ。仕事は楽しんでやれるのが一番んだ」

 おっちゃん、腕を組みながら大きく頷く。


「で、夕飯は何にする。イタリアンか? イタリア風の日本飯か?」

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