第49話 NPCの中の人

 えー、既にバレてたのかー。これでは、ウソつけないじゃん。

 ……って言うか、僕のパーソナル情報が漏れ漏れ? もしかして、恥ずかしい情報も見られちゃったかな。なんかサキさんに見られてヤバイのあったりしないかな?


 ログアウトの時に説明した様に、仮想端末にはその人の全個人情報があるからなあー。まさか、あそこで見られちゃうとは思わなかった。そうか、あの時は結構慌ててたから、個人情報にスクランブルかけるのも忘れてたんだ。


 会社の機密情報は、デフォルトでロックしておいたのは正解だった。機密情報を見る度に、ロック解除する手間があるけど、お陰でサキさんに見られずに済んだ見たい。流石に会社の機密情報を社員以外に見られたのがバレたら、即刻懲戒解雇だものね。


 いくらセブンシスターズでも、こればかりは撤回不能でしょう? だって会社の明確な規則違反だもの。一切の例外は許されないと思うな。イヤホント、危なかったー、冷や汗出まくりだよ。


 しかし困った、僕がNPCのアバターに成り代わってログインして、仮想世界のプレイヤーさんと会話した事がバレちゃった。ヤッパリ、クビかな?


 ジローが、青ざめた顔で、思案を巡らせていると……、その顔を覗き込むようにしながら、サキさんが声をかける。


「ジローさん、大丈夫ですか? 顔が真っ青ですよ」


 その後で、悪戯が見つかってしまった子供が、その悪戯を誤魔化すように、少し微笑みながら大事な事を話し始めた。


「でも、そんなに心配しないで下さい。私はあなたの秘密を知ってしまいましたが、それは私があなたのプライバシーを覗いたからです。そういう意味では、もう私はそちら側の人間だと思って下さい。NPCの中の人が、AIでは無くて人格を持った人間だとバレたら今の仮想世界が大混乱するのは私でも想像出来ます。だから、この秘密は何があっても絶対に喋りません。たとえ兄弟であってもです。この件は、兄にも喋りませんから安心して下さい」


 僕を安心させようとしてくれるのか、緊張のためにしっかりと握っている僕の両手に、ソッと手を置く。

 お陰で、青い顔に赤みが戻ってきた気がする。現役の女子高生に触られたら、どんなに落ち込んでても、勇気百倍だよ。


 それに、秘密を守ってくれるというか、秘密を共有してくれると言ってくれたので、彼女との間には、なんか仲間意識の様な気持ちも芽生えてきたかも。


 これが、やがて愛に育ってくれるのをジローは妄想し始めた……。


「ところで、ジローさん!」

「は、はい。何でしょう、サキさん?」


 僕が自分の妄想に入る前に、良いタイミングで声をかけるサキさん。


「あんまりエッチな写真やビデオの見過ぎは良くないですよ。女の子に嫌われちゃいますよ!」

『えー、ヤッパリ。僕のコレクション見られたかー』ジローは心の中で叫ぶ。


「男の人は、どうしても我慢出来ない時があるらしいから、時々はエッチな物を見るのは仕方ないのでしょうけど……でも、趣味を疑われてしまうのも考えものですよ」


 うわぁー、現役女子高生に、僕のエッチ趣味を意見されてしまった……だ、ダメだ。別の意味でもう立ち直れないかもしれない。

 ジローは、顔は赤いけど、心がブルーな気分になり始めるのを感じた。


「さあ、早くケーキを食べちゃいましょ。紅茶も冷めちゃいますよ」


 なんか、サキさんがすごく元気になって来たのは気のせいだろうか? 今まで詰まっていたモヤモヤしたモノが、全て一気に流れた感じなんだろうなあー。

 その分、僕のモンモンがどんどん詰まって来ている感じだ……。


 やめやめ、深く考えるの、やめ!


 とりあえず、サキさんの言うように、ケーキを食べよう。都心の有名なケーキ屋さんのケーキだぜ。今食べなくて、いつ食べるんだよ。

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