第48話 銃の世界
サキさんから、仮想世界で会ってないか? しかも『銃の世界』で、と質問された。
ヤバイ、
ヤバイ、
ヤバイ。
確かに、サキさんをログアウトさせた時に、僕に会ってないか?と質問されたけど、あえて知らぬ存ぜぬで通したのに……。
二人きりで、嘘のつけない状況で、この質問が来るとは。
ここで、サラリと嘘がつける程僕は人間出来てないし。でも、あのゲームの世界で、確かに会っていると喋ってしまったら、バーのおじさんを演じてるNPCが僕のゲーム世界での姿だとバレてしまう。
NPCに人間が入って操作出来ると言う事が分かったら、誰もNPCを信じなくなってしまうだろう。
今までは、AIによる完全な非人格制御と思われていたからこそ、ゲーム世界の中ではNPCは中立的な立場でいられたんだ。
だって、プレイヤーさんはゲームの中では、素の自分をさらけ出している事が多いので、感情の入っていないAIに対しては、割とホンネを平気で語る場合が多いんだ。
あれだよね、落語話に出てくる堪忍袋と一緒で、誰も聞いていないと思えるから、その袋の中に、自分の感情の思いのタケを思いっきりぶつけられるんだ。
もしも、ぶつけた想いが誰かに聞かれているかと思うと、もうホンネは出せなくなってしまう。
だから、基本的にゲーム世界の中のNPCはAIが管理している。ただし、今のAIには人間臭さがなくて画一的なので、つまらない。だから、時々人間が中に入ってコントロールしているんだ。
だけどこの事は、業界のトップシークレットだ。この事実を暴露した人間は『もう仮想世界では生きていけない』ぐらいのヤバさだ。この事を暴露したら、クビになっても仕方ない。そのくらいヤバイ。
どうしよう?サキさんにだけ、本当の事を言ってしまおうか? でも、サキさんのリアル世界での事を全然知らないのに、全てを話すというのは、僕にはまだムリだ。
NPCではなく、僕がたまたまプレイヤーとして参加した時に、サキさんと会った、という話でお茶を濁すか。
「いやあー、そうですかぁ?」
頭を掻きながらとぼける。
「僕が非番でゲームに参加してる時に、サキさんと何処かであったかも? ですかねーっ」
目線をサキさんから逸らしながら、しらを切ろうとする。
「イエ、違います」
サキさんは、直ぐに僕の答えを一蹴する。
「うわぁー、明確に否定されちゃった!」
僕は、心の中で叫んだ。
「実は、最初に助けて頂く時に、私の事を、スナイパーのサキさんとお呼びになったでしょう? あの話の仕方に、何故か安心感を覚えたんです」
サキさんは、あの時の事を思い出すように話し始める。
「確かに、不安になっている時に声をかけて頂いた事による安心感かと思ったのですが、どうも、もっと深い部分の様な気がしたんです。例えば、いつも挨拶を交わしている仲間の様な感覚です。ただ、その時点では単なる感覚でしか無かったんですけど……」
そこで一瞬間が空く。二人の間に、微妙な空気が流れる。
「ゴメンナサイ! 私、貴方のパーソナル情報を見てしまったんです」
いきなり、サキさんは僕に対して大きく頭を下げる。
「貴方の仮想端末を一時的に借りてログアウトした時に、ふと思ったんです。もしかしたら、今この人のパーソナル情報を見たら、私と何処かで会った情報が残っているかもって」
サキさんは、視線を落として、ちょっとした悪戯が見つかった様に恥ずかしそうに話を続ける。
「会社に関する情報は完全にロックがかかってて、一切見る事は出来なかったんですが、ジローさんのパーソナル情報には全然スクランブルがかかっていなかったので……。そしたら、ジローさんて『銃の世界』でいつも私と会話している、あの飲み屋のバーテンダーの人だったんですね」
いきなり僕の顔を見つめる。
「そのパーソナル情報を見て、私、納得出来たんです。あー、あの人との会話が私の安心感の出所だったんだ。私のカンは間違っていなかったんだ、って思えたんです。それで、なんか凄く安心してこの世界に戻って来られたのです」
そして、僕の顔を見ながらニコリとほほ笑む。
うわー、可愛いーーー!!!
「でも、私がログアウト直後のぼーっとしている間に、ジローさんは帰ってしまうし。そこで、あの時のお礼と、パーソナル情報を盗み見てしまって御免なさい、をするために、兄に無理を言ってジローさんをお呼びしたのです」
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