第45話 ケーキを食べて、幸せ

 サキさんのお兄さんに、「ぜひ家に遊びに来て下さい。サキが『改めてお礼を言いたいし、それに質問もあるから』と言ってました」と言われて、僕は少し舞い上がってしまった。


 多分、地面から5cmは浮いてたと思うね。あ、現実世界では不可能だからね。もしも仮想世界にいたらの話ね。


 本当は、今晩は仕事のハズだったのに、なぜか社内ネットで調べた予定表を見ると僕の名前の欄には「休暇予定」の文字が入っていた。

 きっと本来は、今月末の退職まで、ずーっと休暇になる予定だったんだ。既に僕の解雇は決まってたんだね、……恐ろしいなあ。


 でも、サキさんのお兄さんと定食屋のおじちゃんのおかげて、首の皮一枚繋がつたんだ。やはり、持つべきものを友だよね。うーん、でもサキさんのお兄さんは友でもないし、おじちゃんも友だちじゃあないけどね。

 でも、とりあえず不思議なご縁と言う事かな。一生懸命生きていれば、誰かが見ていてくれるという事か。なんか嬉しいなあ、ホント。


 結局今日の予定が入っていなかったので、サキさんのお兄さんに「今晩伺います」と連絡した。


 さーて、今日の夜まで何をしようかなー。久しぶりのポッカリ開いた時間だしなあ。とりあえず、今晩伺うのに手ぶらと言う訳にはいかないから、何かお菓子でも買っていこうかな。

 少し奮発して、新宿の美味しいケーキ屋さんで、ケーキを買っていこうっと。


 * * *


 ケーキ屋さんに行ってケーキを買って、ついでに隣のイートインの場所で、ケーキセットとパフェを注文しちゃったよ。

 ファミリーレストランで食べた後だから、全然入らないと思ったけど、甘いものは別腹とはよく言ったものだね。さくさく、入っちゃった。


 なんか、さっきまでの鬱々とした気持ちが、やっと収まって来た気がする。結局、人間も動物なんだよね。お腹が一杯になると、満腹中枢が刺激されて、幸せな気分になれるし、お腹が減ってくれば、空腹感からイライラしてくるしね。


 でもさー、なんで僕がスケープゴートになっちゃったんだろう? 今回の事故は、そんなに影響なかったはずなんだけどなア。

 だって、実質的な被害者はサキさんだけだし。そのサキさんも僕の活躍で無事に助け出したんだし。


 それとも、僕も知らないところで何かが進行していて、僕は踏み入れてはいけないところに、無意識の内に足を踏み込んでいたのかなあ? 何だっけ、トラの尻尾を踏むとか、竜の逆鱗に触れた、とか、かな?


 そう言えば、サキさんのお兄さんが不思議な事を言っていたなア。サキさんが僕に質問があるって言ってたし。なんだろう?

 一目ぼれしたから付き合ってくださいかな? いやいや、サキさんぼーっとしてたし。


 でも、リアルなサキさんは可愛かったなあ。ああいう人とお付き合いしたいけど、きっと駄目だろうなア。だって、お兄さん、仮想世界の最後の良心、絶対権力者、セブンシスターズだぜ。お兄さんを怒らせたら、仮想世界では生きていけないぞ。

 ぶるぶる。


 どうしよう、もう少し高級なケーキにすればよかったかしら? でも、高級すぎるケーキも何か不自然だしなア。でも、こんな事で悩めるんだから、良かったよ。ほんと。


 さーて、少し早いけど、サキさんのマンションに行こうか。

 わくわく。

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