第44話 サキさんのお兄さん
お兄さんから聞いた話は、驚くべき事だった。
***
サキさんのお兄さんは、仮想世界を創り出すこの会社に絶大な影響力を持つ議決機関『セブンシスターズ』の一人だったんだ。
元々、仮想現実(VRMMO)や拡張現実(ARMMO)の世界を可能にする技術は、日本のある大学の研究室が主流だった。
その研究室の中でも、特別に優れていた研究者が主導して、日本のベンチャー会社と共同で作成したVRMMOが世界で一番最初の本格的なゲームだった。
しかし、世界で最初に動き出して、フルダイブVRMMOを用いた『鋼鐵の城』というゲームは、その主導的な役割をしていた研究者の暴走によって、誰かがゲームクリアしないと誰もゲームからログアウト出来ないし、ゲームの中でHPが無くなると現実世界でも死亡するという恐ろしいゲームになってしまった。
参加者総勢2万人が、誰もログアウト出来ないまま、数年後に英雄的(伝説的)なゲームプレイヤーによって、ゲームはクリアされ、生き残った1万人が現実世界に戻る事が出来た。
今、全世界で動いているVRMMOやARMMOは、全てこの技術基盤からの発展形になっている。
また、この技術を用いたゲームや医療は、その時のベンチャー企業一社による独占状態のままになっている。
色々なライバルメーカが、この技術を用いて同じことをやろうとしても、まだまだ敵になりえないほど、このベンチャー企業との技術格差がある。
最初のゲームで、その仮想空間に対する使用方法の危険性を全世界に知らしめた事もあり、この技術基盤を開発していた研究室の残ったメンバーとベンチャー企業の一部のメンバーが中心になって、VRMMOやARMMOの使い方の指針(ポリシー)を策定し、その内容を監視するための議決機関を造ろうという事になった。
この議決機関は、決して国に介入されないように、表向きには存在しない立場を取っているが、VRMMOやARMMOの技術を独り占めしているベンチャー企業に対する唯一の抑止力として作用している。
サキさんのお兄さんは、あの研究者と同期の研究員だったが、彼の暴走を止める事が出来なかった事を深く後悔し、今ではセブンシスターズのメンバーとしてその運用方針に関して見守っているとの事だった。
***
「ジローさん、まあ、セブンシスターズの話は、そのくらいにして。僕の妹が、ぜひ君にお礼をしたいという事なんだ。結局、ログアウトした直後は意識ももうろうとしていて、ちゃんとお礼も出来ていないのが、気になっているようなんだ。それに、何か聞きたい? とも言っていたし……。ぜひ、時間があったら今晩にでも家に遊びに来て欲しいんだけど、大丈夫ですか?」
お兄さんは、そう言って僕を家に誘ってくれた。
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