第42話 セブンシスターズ

 ジローはカフェテリアで、ぼーっとしてた。

 涙はもう、枯れていた。


 来月から、僕何したら良いんだろう?

 定食屋でバイトしようかなあー。

 そういえば定食屋のおじちゃんからもオファー来てたしなぁ……。


 そこに、館内放送が入った。


 ピーン、ポーン。


「運営管理六課のジローさん、人事部長室に大至急お越しください」


 え? 解雇辞令って郵送じゃなかったの? 人事部長から直接手渡し?


 20階のカフェテリアから、50階にある人事部長室に行くために、どのエレベータに乗っていいのか手間取ってずいぶん時間がかかってしまった。その間にも、館内放送はそれこそ10秒間隔ぐらいで僕を呼び続けた。


 そんなに解雇辞令を早く渡したいのかなー? 何もそんなに急がなくても分かっているよ。


 ジローの心はどんどん暗くなっていく。


 人事部長室の前に秘書室があるらしく、僕が人事部長室の前にくると、秘書さんが廊下で待ち構えていた。僕を見つけると、それこそ押し付けるようにして、僕を人事部長室の中にいれた。


 そこには、ホームページでしか見たことがない、社長と人事部長、それとさっき会ったばかりの懲罰委員会のメガネの裁判長いいんちょうが、苦虫を踏みつぶしたような顔をして立っていた。


「ジロー君、君の解雇は取り消しだ。ここに居る懲罰委員会の委員長とも話は付けてある。今回の件に関しては、一切不問となった」


 人事部長は、なんとも言えない顔をしながら僕に解雇の撤回を告げた。


 えー??? 一体何があったの?


 憂うつそうな顔をした社長がボソリと言った。


「君って、セブンシスターズに知り合いがいるのかい? セブンシスターズの知り合いに至急連絡して、君の解雇が撤回された事を伝えてくれないか」


 セブンシスターズ? 何それ?

 タバコの銘柄? それとも大手石油会社?


 中身がよく飲み込めないまま、部長室を後にして、フラフラとカフェテリアをさまよっていると、定食屋のおっちゃんから電話がかかって来た。


「オイ、大丈夫か? 査問会は無事に終わったのか? なんかあったら、俺が本社に怒鳴り込んでやるからな」


「あー。定食屋のおっちゃん。査問会の結果、僕、会社をクビになっちゃた……」


「何ぃいいいー! 今すぐ俺が本社の人間に掛け合ってやるから、そこで待ってろ」


 おっちゃんは、凄い剣幕で怒ってくれた。


「あ! でも、大丈夫。その後で急に撤回されたんだ。なんか、セブンシスターズがどうのこうのって言われて……」


 オッチャンは、僕の話を聞いて納得したようだ。


「おお、そうか。セブンシスターズが動いてくれたんだな。まあ、俺もアイツらに一言、言っておいたからな」


「え? おっちゃんも知ってるの。その、セブンなんとか」


 オッチャンは素っ頓狂な声を上げてビックリする。


「え? こっちこそ、え? だぞ、ジローちゃん。お主の会社の最高機関の名前も知らないのか? まあ、ホームページとかの公式情報には一切名前が出てこない、都市伝説みたいなもんだけどな」


 そこまで言ってから、落ち着いた声で話を続ける。


「でも、確実に存在してVRMMOも含めた仮想空間に対する運用ポリシーを決める最高決議機関なのさ……。まあ、お前の会社の良心。最期の砦だよ」


 おっちゃんは、セブンシスターズの事を僕に教えてくれる。


「セブンシスターズの決定は、会社のどんな人間も逆らえないんだ。ある意味では恐ろしい機関だが、現時点では非常に良い意味で作用している。俺も実は一枚噛んでるが、でもメンバーじゃ無いぞ。俺は定食屋のオヤジだからな。ガハハ!」


「えー、そうなんだ。でもありがとうございます。おっちゃんが手を回してくれて助けてくれたんですね」


「イヤ、手を回したのは俺じゃあ無いがな。はて? 誰だろうなあ?」


 おっちゃんは、セブンシスターズの誰が動いたのか分からないようだった。


「まあ、でも良かったなジローちゃん。これで、これからも仕事続けられるじゃん。俺の所で働いてくれるのは、もう少し先になっちまったがな。ガハハ! また、定食食いに来てくれよ、ジローちゃんはうちの常連だからなー」


 ガチャン、ツーツーツー。


 散々言いたいことだけ言って切れちゃった。よくわかんないけど、何か強力な力が働いたみたいだった。

 プレイヤーさんのために頑張っているのを、見ている人は見てくれているんだなあーと思って、少し嬉しくなった。

 人生まだ捨てたもんじゃあ無いか、という感じだった。


 感傷に浸っていたら、今度はシステム管理のマサさんから電話がかかって来た。


「おう、ジローちゃん。話は聞いたぜ。ゴメンな、俺たちの勇み足でスケープゴートになりかけたんだってな。でも、凄いなあセブンシスターズ。何処で嗅ぎ付けたんだろうな?」


 マサさんもセブンシスターズは知ってるみたいだった。


「俺たちみたいな関連会社のヒラ社員なんて、本社から見たら末端の人間だもんな。トカゲの尻尾やタコの足だもんなあ。そんな末端の人事情報まで網羅してるなんて、水戸のご老公かい?」


「うーん、それは流石に無いですよ、マサさん。種明かしすると、たまたま僕のお世話になってる人が、セブンシスターズと繋がりがあったみたいで、それで助けてもらえたらしいです。本当に運が良かったです」


「おお、そうか、そういう繋がりは大事にしなきゃあな。袖すり合うも多生の縁、ってな。人生どんな繋がりも大事だよ!」


 そこで、マサさんは思い出したようにユウさんの話を持ち出す。


「HW管理のユウも心配してたから、後で連絡しておくな。じゃあ、また今度」


 ブチ!

 ツー、ツー、ツー。

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