第41話 解雇通知

「次の質問です……」


 何故か、一呼吸間合いが入る。


「貴方は、なぜ緊急対応チームが出動する方向で進んでいたのに、独自の判断でプレイヤーさんを助けたのですか?」


『独自の判断』という言葉が妙に引っかかる。


「それは、先ほども申しましたように、システム管理の方から、プレイヤーさんの身体に異常が出始めていると申し出があったからです。実際にプレイヤーさんに会ってみた時には、かなり神経が参っている感じでした。もしも、プレイヤーさんの状態が安定していたら、僕だって緊急対応チームに任せました」


 ガン、ガン。


「先ほども申しましたが、被告人は外部からの情報による自分の推測は挟まないように」

 裁判長いいんちょうがまた木槌をたたいて、言った。


「結果として、緊急対策チームによる強制ログアウトではなく、ジロー君個人の判断による強制ログアウトを実行したという事ですね」


「はい、そういう事になります」

 僕は、そう答えるしかなかった。


「それでは、質問は以上になります。ジロー君の方から何か質問は有りますか?」


「イエ、特に有りません」

 僕は答えた。


 だって、なんか変な質問したら、逆に突っ込まれそうだしね。


「それでは、今から審議を行いますので、ジロー君はそこで待っているように」

 そういうと、裁判官いいん達は僕を残して部屋の外に出て行った。


 えー? こんなので、終わりなのかなあ? 僕は少しほっとしたと同時に、イヤーな感じもしていた。

 これって、僕をスケープゴートにするために、適当に質疑応答して時間を稼いだら、後はポイッてやつかい?


 裁判長いいんちょう裁判官いいん達は、少ししてから戻ってきて自分達の席に着く。それから、おもむろに僕に結果を告げた。


「ジロー君、査問会の結果を通達します」


 ドキドキ、ドキドキ


「君には、今月付けを持ってこの会社を辞めてもらう事になりました」


 僕の頭の中では『辞めてもらう』という言葉がグルグル回り始めた……。


「解雇理由は『被告人は独自の判断により、社内内規を極端に逸脱した行動をとり、社内業務を著しく妨害したため』です。それに関する一切の反論は認めません。これは、会社としての決定事項です。以上」


 裁判長いいんちょうは、淡々と書類の言葉を読み上げる。


「えー、そんな馬鹿な!」

 僕は叫んだ。


 裁判長いいんちょうは言った。

「解雇通知は明後日には君の自宅に通知されます。貴方は、今月末までに業務の引継ぎを行ってください。退職時の手続きに関しては、後程総務担当者から連絡がくるから、それに従うように」


 僕はショックで委員長の言葉の最後の方をほとんど聞き取れなかった……。


「以上で、本日の査問会は終わりです。それでは散会」

 委員長はそう言い放つと、最後に木槌を鳴らした。


 ガン、ガン!


 * * *


 僕はしばらく放心状態だった。


 後ろから事務の人が入ってきて、僕の手錠と足かせを外してくれたが、僕は何をしていいのかも分からなかった。


 ブー、ブー、ブー。


 僕の胸に入っている携帯電話が振動しているのに気が付いたのは、懲罰委員会のエリアを出てしばらく本社の中をさまよっている時だった。


「は、はい。ジロー、です……」

「もしもし、ジロー君? 大丈夫か君? 何かあったんじゃないか?」


 誰かと思ったら、このあいだのトラブルで助けたプレイヤー、サキさんのお兄さんだった。そうか、あの時僕がお兄さんに電話したから、着信履歴が残っていたんだ。


「君に、お礼を言おうと思って、先ほど会社の代表電話にかけて君の事を聞いたら、君は今月末で解雇になりますと言われたんだ。なんで、僕の妹を助けてくれた君が解雇されなければいけないんだ? 何か、不都合な事でもしたのかい?」


 僕は、敵地で急に聞いた優しい声に不本意にも涙声になりながら、今回のいきさつについて掻い摘んで説明した。

 本来であれば、社内人事の話だから外部に話すべき事ではないが、どうせ解雇されるなら、という思いもあったからだ。


「ちょっと待ってくれ! それは明らかに不当だよ」


 お兄さんは、まるで自分の事のように怒ってくれる。


「君は今どこにいるの? 本社の中か? よし、それなら本社の中のカフェテリアで待機しててくれ。いいかい、絶対にカフェテリアから動いてはだめだよ」


 お兄さんは、そう言い残すとイキナリ電話を切った。

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