第40話 査問会

 査問会は、いきなり始まった。


 ガン、ガン!


「それでは今から査問会を開催します」


 裁判官席の真ん中に座っているメガネをかけたおじさんが木づちを鳴らしてから、言った。なんで裁判官と同じ法服まで着てるんだ? 本当に裁判官かと思っちゃうよ。


「貴方は、社員管理番号ZAAF1392、運用管理六課所属のジロー君ですね」


 書類を見ている目をこちらにジロリと向けて、気持ちのこもっていないお辞儀をする。


「先ずは、急に呼び出して申し訳ありませんでした。その件に関しては謝罪いたします」


 全然謝罪には見えないけどね。


「今回の運営トラブルに関して、貴方の対応方法に問題が無かったかどうかを確認するために、急遽査問会に来ていただきました」


 また書類を見てるし……。


「後日の呼び出しの場合、証拠の隠滅や捏造が発生する事が考えられるため、緊急措置だった事をご理解下さい」


 証拠隠滅なんて、そんな事考えてもいなかったよ。


「最初に警告しますが、ここでの証言は全て録音されて今後の貴方の進退に係る資料になりますので、発言する時には注意するように。また、発言は貴方の良心に基づいて正しく行ってください。後日、発言の中に嘘・偽りがあると認められた場合には、査問会ではなくて、懲罰会に出席していただく事になるのを忘れないでください」


 えー!? 何それ。聞いてないし。


「さて、それでは早速開始しましょう」


 ゴクリ! 僕は、ツバを飲み込んだ。


「貴方は、今回のトラブルをどのようにして知ったのですか?」


 あ、この質問は簡単だね。


「会社のスマホに緊急通信で入ってきました」


 僕の答えが分かっていたかのように、間髪を入れず次の質問が来る。


「トラブルに会っているプレイヤーの個人情報は、何処で手に入れたのですか?」


 うわー、ごめんなさい、マサさん。嘘を付くと多分クビになるので、本当の事を言います。


「はい、システム管理三課のマサさんから連絡を頂きました」


 ここからは正念場だと思った。落ち着いて答えるために、ここで深呼吸してから話し続ける。


 「でも、これは、緊急対策チームの出動には時間がかかりそうなのに、プレイヤーさんの身体情報に異常が現れたからだと思います。だから、たまたま一番近い運用管理担当者に対応可能か確認するために、プレイヤーさんの住所を連絡してくれたのだと思います」


 ガン、ガン。


 裁判官(本当は、査問会の委員長なんだろうけど、どう見ても裁判官にしか見えないよ)は、木槌を叩きながら、僕に向かってこう言った。


「被告人は推測で発言しないように。もしも、その内容が、システム管理三課のマサさんと一致していない場合には、貴方の発言に嘘があったという記録が残ってしまいますよ」


 うわー、厳しいなあ。これがこれからも延々と続くの?


「次の質問です。貴方は、その住所を他の誰か第三者に漏らしたりしてませんね」


 ドキ、ヤバいなあ。定食屋で傍のトラ猫宅配の兄ちゃんや工事のおじさん達に見られちゃったからなア。でも、あれは見られちゃった訳で、僕が意識して漏らした訳じゃあないし。


「いえ、漏らしたりしていません」


 ドキドキ、ドキドキ


「次の質問です。貴方は、どうやってプレイヤーが住んでいるマンションに入ったのですか?」


 うわ、これもヤバイ質問だなあ。見られた住所のマンションで、たまたま5G工事があるから、マンションの中に入れてもらったなんて言えないし。ここは、5G工事のおっちゃん達を信じて、口裏を合わせておこう。


「はい、連絡を受けた住所がマンションである事は、僕の近所ですし知っていました。プレイヤーの緊急連絡先に電話した上で、マンションまで行って入れてもらおうと思って、マンションの入り口でウロウロしていました」


 工事のおじちゃん達、ゴメンね。信じてるよ。


「そうしたら、たまたまそのマンションの屋上で5G工事があるらしく、工事関係者がマンションの玄関のロックを解除して入っていくところだったので、彼らの後をついていきました」


「ジロー君、マンション玄関のテールゲーティング(本来入るべき人の後に、こっそりと付いて行く事)は、社内内規でも禁じられていますよ。始末書の提出をお願いします」


 裁判官もどきのおじさんは、何やら書類に書き込みをしている。きっと『始末書提出必要』とか書いているんだな。


「はい、承知しました」


 フー! とりあえず、始末書ですんだかな。


 しかし、その後で大変な事が待っていたのをジローは知らなかった。

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