第39話 懲罰委員会
本社には電車でしか行った事なかったから、本社の地下駐車場なんて全然イメージわかないや。まあ、普通の駐車場なんだろうと思ってたけど、全然イメージが違ってた。
お洒落なクルマが何台も止まってて、そこからは美人で化粧バッチリなスタイリッシュお姉さんが、マッチョなお兄さんにエスコートされて降りてくるし。
かたや、僕は扉に格子戸付きの護送車だしなあー。これも一つの演出ってやつかしら? なんか疑心暗鬼になりかけてますね。
ダメダメ、こんな弱気じゃあ。こんな舞台設定に負けて、弱気で査問会に行ったら、それこそ戦わずして負けることになっちゃう。僕には定食屋のみんなが付いているんだ。(あまり、あてになんないけどね)
護送車は、お洒落な駐車場を通り抜けてさらに奥に進んで行く。
キキーッ!
「着いたぞ、ニイちゃん」
ガチャガチャ、カチャ。
鍵を開けてトビラが開くと、護送車のおじちゃんが手錠と足かせを持って現れた。
「えー、足かせまでするんですか。だってこのビルって、最新のセキュリティーで管理されてるから、足かせなんかしなくても逃げられるわけ無いでしょう?」
足かせをはめようとするおじちゃんに向かってイヤイヤをする僕。もう恥も外聞も気にしない。
「僕が此処からダッシュで逃げても、5分後には屈強な警備員さんに羽交い締めされてるイメージしか湧きませんよ」
僕はフロアー全体を見回して、おじちゃんに説明する。
「うーん、でもそういう規則だからねえ。ゴメンねニイちゃん」
護送車のおじちゃんは、そう言いながら、僕に手錠と足かせを付けた。
「まあ、ほら。この会社って、仮想空間のゲームが売りだろう? VRMMOって言うんだっけ。ほら、中世のお城に幽閉された姫様を助けに行くとか、悪魔の森に巣くう魔王を倒しに行くとか。だから、査問会に行く人にも、そのノリで参加させたいんじゃないか? まだ、囚人服に着替えさせたり、頭巾を頭から被らされないだけでもいいんじゃないかい」
うーん、そういう考え方もあるかなあ。パンツから何から脱がされて、四つん這いになって、お尻の穴までチェックされてから、囚人服まで着させられたら、もう気分は巌窟王だしね。
まだ、そこまでされない分、良しとすべきなのかなあ?
でも、普通の会社では、社員に手錠と足かせを付けて査問会に出席させることは絶対にない! と断言出来るけどね。
最近のゲームのシナリオライターさんて、暇なのかなあ? 護送車のおじちゃんが言うように会社の仕組みも段々とファンタジーゲームの影響を受けてるんじゃないかな。
でもさあ、ゲームはゲームであって、現実世界の仕組みと違うんだから、現実世界にVRMMOを持ち込むのはダメでしょう。
* * *
とか考えている間に、どうやら懲罰委員会の管理エリアに入った様だ。なんかここだけ空気が違う。普通の会社組織とは隔絶された感じだ。
うーん、ダメダメ、ジロー。雰囲気に飲まれたら負けるぞ。ちゃんと前を見て、しっかりと地に足をつけて答えるんだ。
「ようこそ、懲罰委員会へ」
薄ら笑いを浮かべて、グレーの背広を着て黒縁メガネをかけた、いかにもお役人然とした官吏の人が僕をその部屋に招き入れた。
そこは、テレビドラマでしか見た事が無いような、裁判所の法廷と同じ作りになっていた。正面には普段なら裁判員が並ぶ一段高い席がある。左側には検察官の席があり、右側には弁護士さんの席がある。
でも、ここでは右側の弁護士さんが座るべき場所には何も無い……、そうか、弁護は自分でするしか無いんだ。
なんか、だんだんと憂鬱な気分になって来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます