第38話 白馬の騎士(正義の味方)は来るかな?

 護送車まで用意するほど準備万端な懲罰委員会って一体なんだよ?


 そりゃあ、プレイヤーさん助けるために、チョットだけムリしたけどさ。でも、査問会にかけられるほどの悪事じゃあ無いと思うんだけどなー。

 それとも、今回は100パーセント会社が悪いから、どうでも良い社員をスケープゴートとして使うんですかね。

 僕は人柱、って事? 責任取らせましたから、会社を訴えないで、って事ですか?


 始末書だったら何十枚でも書くから、クビだけは絶対にやだー!。


 僕を乗せた護送車は、都心にある本社に向かって移動している。ご丁寧に僕のいる部分と運転手側の仕切りには格子まで入ってるし。


 誰だ、この護送車のデザイン考えたヤツ。チョット凝りすぎじゃないか? そう思いながら、運転手さんに向かって尋ねた。


「この車、どこに行くんですか? まさか本当の留置場ですか?」


 運転手さんは、周りに注意しながら答えてくれた。


「そんな馬鹿なわけないじゃないですかー。民間企業ですよね、この会社。雰囲気を味合わせたいだけじゃないですかね。君を連れて行く場所は本社別館の特別会議室って言われてますから、車で行く先は、本社の地下駐車場ですよ」

 運転手さん、ここで声のトーンを一段と落として話し続ける。


「でも、私がバラしたとか言わないで下さいね。隊長に怒られちゃうから……」


 良かった! この人はマトモな人みたいだ。話が分かりそうだな。


「すみません、オシッコ漏れちゃいそうなので、近くのコンビニで止めてもらえませんか?」

 僕もつられて小声で運転手さんにお願いする。もちろん格子戸越しにね。


「えー! そりゃ大変だね。オシッコ我慢したら膀胱炎になっちゃうものね。分かった、チョット待ってね、今見つけるから」

 そう言って、運転しながら道路沿いのコンビニを必死に探してくれる。


「おー! あった、あった。あそこならこの車も止められそうだ」


 キー!

 車は道路沿いに大きな駐車場があるコンビニに止まった。


「兄ちゃん、チョット待ってな。今鍵開けるから」

 運転手さんは運転席から外に出る前に僕に声をかけてくる。


「え! 僕の乗ってる場所って内側から開かないんですか?」


「うん、チャイルドロックと同じだよ。移動中に勝手に内側から扉を開けたら危ないだろう?」

 そう言って後ろに回って扉の鍵を開け始めた。


 ガチャガチャ。


「これでオッケー。兄ちゃん、コンビニのトイレに行ってきな。その代わり、逃げないでくれよな! 兄ちゃんが逃げると俺が怒られるからな」

 運転手さんは、扉を開けながらすまなそうに僕にお願いする。


「うん、分かってるよ。オシッコタイムをくれる、話のわかる運転手さんは裏切れないよ!」

 僕は運転手さんにお礼を言って、大急ぎでコンビニのトイレに向かう。


 僕はコンビニのトイレに入ると、隠し持っていた携帯電話で、定食屋のおじさんに電話した。


 プリプルー、プリプルー。


「はい! 定食屋ですー」


 明るいおっちゃんの声が聞こえて、少しホットした。


「あ、ジローです。今日は色々とありがとうございました! おかげさまで、プレイヤーさんを無事に助ける事が出来ました」


「オウ、それは良かった。で、どうしたんだ、イキナリ電話して来て?」


「実は、その後で、会社の懲罰委員会から査問会の呼び出しが来て、今護送されてるんです。トイレに行くフリをしてこっそり電話してるんです」

 僕は手早く定食屋のおじさんに告げる。


「何ダァー! 人助けして、その結果が査問会? ふざけてる会社だなあ。そんな会社辞めちゃえよ。ウチの定食屋で働くなら、毎日ご飯大盛りだぞ」

 いつものように大きな声で、僕を勇気づけてくれる。


「うーん、魅力的な提案ではあるんですけど。僕はこの仕事が好きなんですよね。だから、出来る事なら辞めたく無いし。まあ、そんな理由で、もしかしたら会社の調査員がそちらに行くかも知れませんが、今日の僕の会話は内密という事でお願いします」

 僕はほんの一瞬だけ躊躇したけど、それでもおじさんの申し出を丁寧に断った。嬉しいなあー、こういうオファーって。


「オウ。そんなのは当然だ。秘密は守るぜ! お客さん達にも行っとくわ。それに、ウチの客はみんな口硬いから大丈夫だよ!」

 定食屋のおじちゃんは元気に約束してくれる。


「ありがとうございます。それを聞いて安心しました。じゃあ、頑張って査問会に行ってきます!」


「オウ。気をつけてな。何かあったら、言ってくれ。俺に出来る事なら、何でもするぞ!」

 定食屋のおじちゃん、本当に心配そうに気を使ってくれる。


「ありがとうございます、頑張ります」

 僕はそう言って電話を切った。

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