第37話 もう一波乱、想定外だよね
サキさんのリアルな顔を見る事が出来て、緩んだ顔でマンションを降りてきたら、マンションの前には会社の緊急対応チームが緊迫した状態で待機してた。
チームの隊長は、時々本社で見る顔なので、チラリとお辞儀してから
「お疲れ様でした! 無事に終わりましたので、失礼します」
ジローはそう言って、この場所を足早に立ち去ろうとした。……ら、イキナリ両脇から屈強な隊員達に取り押さえられてしまった。
「え? 何ですか。僕、何か悪い事しましたっけ?」
(本当は始末書何枚も書かなきゃいけないくらい悪い事してんだけどね、でもまだバレてないはずなのに……それに、この手の場合には緊急対応チームじゃあなくて、懲罰委員会の黒服さんがくる事になっているんだけどな。ドキドキ!)
心はドキドキしながら、少しとぼけて答えてみる。
「何言ってんの? ジロー君。君には懲罰委員会から緊急査問要請が出てるんだよ。だから、一番近くにいるオレ達が君を確保する役目を依頼されたんだ」
緊急対応チームの隊長さんは、迷惑そうに僕を睨みつける。
「えー、だって僕、そこまで悪い事しましたっけ?」
ジローは隊長の言葉を聞いて驚く。
「『そこまで』という事は、悪い事をしたという自覚はあるんだな。じゃあ、おとなしく我々に投降してもらおうか」
隊長も、不本意そうな顔をあらわにしながらジローに命令する。
「イヤイヤ、投降も何も。僕、別に武器持ってないし、それに逃げたりしませんから、そんなにぎゅーッと両腕を掴まないでくださいよ。大丈夫ですよ、逃げたりしませんから優しくして下さいよ。そもそも、屈強なお兄さん達ばかりで編成されてる緊急対応チームとやり合う奴なんて普通はいないですよ」
僕は両腕の痛さで少し涙目になって答える。
「ああ、そうか済まないな。おい、君達。腕を握るのはやめて、手錠をはめてやれ」
隊長は、申し訳なさそうに、でも、結構凄い事を命令する。
「えー、手錠ですか? 凶悪犯なのですか、僕?」
手錠をはめられながら、僕は隊長に訴える。
「犯罪のレベルが軽いとか、重いとかは関係ないんだよ。懲罰委員会に呼ばれた社員を逃すと、我々が懲罰を受けるからな。申し訳ないが、絶対に逃げられない状態で保護しなければならないんだ。我々の気持ちも察してくれ、頼む」
隊長は僕の方を向いて、一言二言言い訳を言う。
「ハイハイ、お気持ち察しますけど、手錠はやり過ぎでしょう? 人権蹂躙ですよー」
僕は手錠をはめられた両腕を隊長に向かって差し出しながら、ダメ元でチョット抗議してみる。
「残念ながら懲罰対象者には人権なんて言葉は存在しない。会社を辞めて外部の人間になれば別だがな」
隊長さん、チョット可哀想と思ってくれているようだが僕を冷たく突き放す。
うーん、会社は辞めたくないからなぁ。わかりました、ここはお縄になるしかないか。僕は心の中で自問自答する。
でもこれって、懲罰委員会の洗脳方法なんじゃないか? こうやって、高圧的に捕まえておくことで、査問会で質問される頃には弱らせて懲罰委員会に反論出来ないように仕向けるんだ。だって、既に僕は『悪人で、人権も無い』という立場に立たされてるわけだし。
昔の映画で観たことがあるけど、人間は立場によって性格が変わるみたいだからね。
学生を集めて、囚人と看守に分けて数週間生活させる実験だったらしいんだ。
でもほんの数日間で看守側の学生は、どんどん看守として横暴になって行き、反対に囚人の立場に置かれた学生は、どんどん囚人として卑屈になって行くんだ。
最初は長期間の影響を調べるつもりだったけど、囚人と看守の人間関係が極端に悪くなっていくので、当初の予定を大幅に短くして、結局は実験中止になった。
確か、そんな映画だったかな?
懲罰委員会も、査問対象者を査問会に出す前から脅すことで、お互いの立場を刷り込もうとしている感じだね。あー、ヤダヤダ。
「おい、何をブツブツ独り言を言っているんだ。早くこの車の後ろに乗れ!」
隊員は僕を車に乗せようと、急かす。
えー、これって護送車と同じじゃん。チョットやばいなあー。
「そういえば、マサさんやユウさんは、どうなったのですか? 査問会の原因が今回のトラブルなら、彼らも対象者なんでしょうか?」
僕は不安げに隊長に質問する。
「うるさい! 取り敢えず護送車に乗って懲罰委員会の本部に向かうぞ!」
隊長も隊員も僕の質問には一切答えずに僕を押込み、護送車は動き出す。
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