第35話 一段落してからが大変なんだ

 サキさんが仮想世界から消えてしばらく経ってから、ユウさんから僕のヘッドセットに連絡が来た。


「オッケー、ジローちゃん。プレイヤー番号GAAA9001の脳接続システムの遠隔強制停止が正常に完了した事を連絡します」


 僕はユウさんにお礼を言った。

「了解しました! お仕事ご苦労様でした」


 それからマサさんにも連絡する。

「マサさん、システム同期装置を『低速』から『正常』に戻してもらえますか?」


「オッケージローちゃん。サキちゃん無事に夢から醒めたのかな? 生体反応は全て許容範囲内で、先程脳接続システムからも正常に接続が切れた事を確認したよ。それではプログラム側も正常状態に移行します。ジローちゃんもお疲れ様でした」


 マサさんは、僕と会話しながらキーボードをカチャカチャ操作しているようだ。


「じゃあ、仮想端末の利用者をサキさんからジローちゃんに戻すから、ログアウトして現実世界でサキさんの体調を確認してくれ。現実世界に戻ったら、もう俺たち管理センターの範囲外だからな」


「了解ですー!」

 僕は元気よく返事をする。


 さてー。無事にお仕事終わったし、現実世界に戻って、リアルなサキさんを見ちゃおうかな。一応健康チェックも必要だから、ウフフな事もしちゃおうかな。


 でも待てよ、あのお兄さんの妹と言ってたっけ。て事はもしかして僕より年下か。

 それじゃあ、ウフフな事したら犯罪者になっちゃうじゃん。流石にそれはまずいなあ。

 もっと年上のお姉さんで、僕みたいな若者相手なら、まだ体調が悪いから体の隅々まで若いあなたに確認してもらいたいわー。ウフフよぉー、……とかのシチュエーションを期待してたけど、だめか。しょぼん。


 さて、仕事も無事に終わったし。それでは、ログアウトして現実世界に戻りましょうか。


 ビューン!


 * * *


「あ、お兄さん。妹さんの状態はどうですか?」


「おお、ありがとうございます。妹は先ほど目覚めて、まだぼんやりとしているようですが、呼吸も落ち着いています」


「そうですか、それは良かった。強制的にログアウトした場合は、意識が覚醒するのに少し時間がかかる場合がありますので、問題ないと思います」


 僕はサキさんの体調チェックの準備を始める。


「それでは、一応健康状態を確認させていただきます。私は、看護師助手の資格もあるので妹さんの健康診断を行う資格はあるのですが、男性が女性に触れる場合には、ご本人の同意が必要になります」


 僕はお兄さんに体調チェック用のセンサーを手渡す。


「今の状態では、まだ妹さん本人の同意が取れないようなので、お兄さんが体調確認の検査用パッドを妹さんに張り付けていただけますか? パッドの取り付け場所は、それぞれのパッドに書いてあります。私は隣の部屋で待機していますので、お願いします」


 実は、最後の健康診断チェックは、結構問題になっているんだよなあー。

 今回は肉親が側にいるから、お願い出来るけど、アパート住まいの独り身のお姉さんの場合は色々と問題が起きているらしいんだよね。

 強制ログアウト後は、本人はまだ意識が朦朧としているけど、こちらは直ぐに健康状態を確認したい訳で……。


 出来る限り女性プレイヤーには女性の管理担当者がお世話する方針だけど、今回のような緊急な場合や、プレイヤー属性が男性だけど本人は実は女性だった、と言うときが非常に困るよね。


 一応、ビデオを回しながら本人に説明して同意をもらってから進める事になってるけどね。

 健康チェックのパッドは直接肌に付けるか、下着の上から貼り付けないと正常な値が測定出来ないんだ。

 流石に独り身女性の服を脱がせて、下着の上からとはいえ検査パッドを貼り付けるのは、管理担当者といえども躊躇するしね。

 訴えられないように、その全ての過程をビデオ撮影するけれど、ヤッパリ後で色々と噂になっちゃうんだよね。


 まあ、本人は意識が朦朧としてたので、無理やり服を脱がされて下着だけにされたとかね。これって、同性だから大丈夫と言う訳でもなさそうで、個人的な考え方にも大きく依存するからね。


 いずれにしても、今回はお兄さんが居てくれて助かったよ。ホント。

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