戻って来てからが大変さ
第34話 おかえりなさい
「それでは、もう一つの帰り方をご説明しますね」
いよいよ核心に入る。多分こちらが選ばれるはずだものね。
「それは最初に申しました様に、私の仮想端末を使う事です。多分最初にお会いした時にサキさんの体調確認のために一時的に、私の端末をお貸ししましたよね。その時、この端末は私ジローの端末なのでジローしかログアウト出来ない事をお伝えしました」
なんか説明が長くて飽きてしまわないかなあ? でも大事なんだよね。
「その説明は正しいんです。ですが、これからサキさんに説明する様に、この端末を利用してサキさんをログアウトさせる事も出来るのです。良いですか? サキさんがログアウト「する」のでは無くて、サキさんをログアウト「させる」事が出来るのです」
ここんとこ凄く混乱するんだよな、みんな。
「この仮想端末はジローの端末ですから、ログアウトするのはジローです。ただし、特別な方法を使う事で、ジロー以外のプレイヤーさんをログアウトさせる事も出来ます」
さて……サキさんなら理解出来るはずだよね。
「この方法は、仮想端末を使用しなくても運用管理センターと直接連絡出来る手段を持っている私達みたいな運用側のメンバーだからこそ可能なんです」
長いよなあー説明。ゴメンねサキさん。
「そもそも、この仮想世界からログアウトするには、プログラムとしての仮想世界からのログアウトと同時にプレイヤーさんの被っているヘッドセットの脳細胞への外部刺激の停止を完全に『同時』に行う作業なんです」
普通はこんな事知らなくても良いんだけどね。
「そのため、プログラム上のログアウトとヘッドセットの脳刺激への強制停止を同じタイミングで実行する必要が有ります。現実的に、二つの作用を同時に行う事は困難なので、許容範囲の間での同時性を保証する方法が考えられました」
ここで一呼吸置く。
「それが今から説明する方法です」
また、これが長いんだよね。
「要するに、完全に同時が無理なら、システム上の経過時間を遅くしてやれば、実際は同時で無くても誤差範囲内でシステム上は同時に行われた、と認識されます」
大丈夫? サキさん、付いて来てるかな。
「だから、ヘッドセットの制御を行う人とシステムのログアウトを行う人と、最後にプレイヤーさんの状況を確認しながら全体を管理する人の、合計3人の体制でしか出来ないログアウト作業なのです」
一応リスクの話もしないとね。
「更に言うと、通常のログアウト時間より多くの時間を費やす事になります。それに脳細胞的には、強制的に現実世界に戻ってくるので、しばらくの間は少し体がフラつくらしいです。その理由として考えられているのが、脳がまだ現実世界に慣れていない状況に陥るからだと言われています。まあ、一言で言えば、一時的に酔っ払ったと考えれば良いと思います」
はあー、説明が長すぎだよね。
「さて帰る方法を2つ説明いたしましたが、どちらの方法で現実世界に帰りますか? サキさん」
「はい、私としてはジローさんの端末を使用する方法でお願いしたいです。やはり、私の個人情報を公開するのは、ちょっと耐えられそうにありません。3人がかりでのログアウトになってしまうらしいですが、宜しくお願いします」
やはりそうだよなぁ、普通はそうなるよね。
「はい、承知いたしました。それでは、早速強制ログアウトの準備を始ます」
僕は、早速ヘッドセットのマイクを使って、マサさんとユウさんを呼び出した。
「マサさん、ユウさん、お待たせしました。ジローです。それでは予定通り、プランAでログアウトの準備をお願いします。どうぞ」
そう言って、僕はログアウトの準備に入る。
「マサさん、僕の仮想端末をまたサキさんに使用してもらいますので、許可をお願いします。それと、ログアウト時間のスピード調整もお願いします。ユウさん、それではサキさんのヘッドセットの脳接続強制解除の準備をお願いします。どうぞ」
僕は、サキさんに向かってお願いする。
「それではサキさん、僕の端末にサキさんのIDで入ってから、ログアウトをお願いします」
「はい、今から私のIDで入ります。あ、今入りました。この状態で『プレイヤーサキ。ログアウトしますか?』を『Yes』で良いのですね」
「はい、『Yes』ボタンを押してください。これで、サキさんは、プログラム的にはログアウトされます。もうこれでお別れですね。また酒場で会えると良いですね。それではさようなら」
「え? ジローさんと私って、どこかであった事ありましたっけ?」
サキさんが不思議そうな顔をしたと思った瞬間に、仮想世界からアバターが消えた。これで、プログラム上はログアウトされた事になる。後は、サキさんがゆっくりとログアウトしている間に、ユウさんがヘッドセットの脳接続システムを遠隔操作で強制停止させれば、それで全てが終わる。
全てがうまく行ったあとで、僕もログアウトすればいい。
サキさんとは現実世界で会える事になる。でも、酒場の話は出来ないけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます