第33話 現実世界に戻るには
僕はサキさんにユックリと話し始めた。
「それでは、今から帰る方法を説明いたします。少しでも分からないことがあったら、説明中でも構いませんから直ぐに聞いてくださいね」
不安を抱えているプレイヤーを落ち着かせるように、ユックリと説明を続ける。
「後でまとめて聞こうとはしなくて良いですからね。分からない時は直ぐに聞くようにした方が答える方も楽ですし、直ぐに聞いた方が理解も早いんです」
分からない事は不安と一体だから質疑応答することを促しておく。
「まあ、学校の授業とかでもその方が良いと思うのですが、質問を嫌がる先生も多いですからね。もう少し先生も生徒さんの事を考えてくれると良いのですけどね……あ、申し訳ない、話が逸れちゃいましたね。それでは続けますね」
少し別の話を入れるのも、緊張感を和らげる効果があるらしいんだ。
「先ず一番大事な事は、私達は貴女を元の世界に安全に戻すことが最重要なことだと認識しています。だから、そのための最善の方法を考えています」
とにかく安全に帰すからね、を必死にアピールする。
「その方法としては、大きく分けて2種類あるんです」
さあ、ここからが一番大事な話だぞ!
「一つ目は、私の仮装端末を使う方法。もう一つは、サキさん……貴女の端末を使う方法です。色々と疑問があると思いますので、ここ聞いてくださいね?」
さてと、サキさんはこの質問に反応してくれるかな?
「えーと、ジローさん? とお呼びして良いですか。早速質問があります」
お! よしよし、食いついて来た。
「ハイ、何でしょうか。サキさん」
「先程帰る方法が2つあると仰いましたが、二番目の方法は私の端末を使うと言ってませんでしたか? でも、私の端末は事故で表示されないんですよね。それなのに、どうやって私の端末を使うのですか?」
サキさんの質問にはクエスチョンマークが沢山入っていそうだった。
「サキさん、良い質問です。大分冷静になって来ましたね。流石、一流スナイパーさんですね」
つい、いつもの調子でサキさんに話しかけてしまった。
「アラ? 私のゲームスタイルがスナイパーって良くご存知ですね。その属性も管理センターから教えてもらったのですか?」
う、ヤバイ。いつもの調子で喋っちゃった。この会話は、管理センターのマサさんやH/W担当のユウさんに筒けな上に録音されているから、嘘はつけないんだよな。
僕が教えてもらえるのはプレイヤー管理番号とアバター名だけで、それ以上の情報は個人情報管理の観点から厳しく制限されているんだもんね。
「いえいえ、個人を特定する情報は厳しく管理されていますので、アバター名のサキさんと管理番号しか教えてもらっていませんよ。何でスナイパーかと思ったのは……ほら! そこに狙撃銃が置いてあるじゃないですか」
危ない、危ない。サキさんが持っているバレット社のM82のおかげで誤魔化せそうだ。
「僕もゲームは好きなので射程距離が優に2キロメートルを超えるような狙撃銃を持っている人は、プレイヤースタイルがスナイパーなんだろうなあ、と思っただけです。もしも勘違いしていたなら、謝ります。ゴメンなさい」
ここは、巧みに誤魔化す。
「なんだ、そうだったんですね。そうですよね、こんなお化けみたいな銃が置いてあったら、銃に詳しい人が見たら直ぐに分かっちゃいますよね。やっぱりチョットまいってるのかしら?」
良かった、上手く誤魔化せたぞ。
「それでは、先程の質問にお答えしますね」
ボロが出る前に、さっさと、話を元に戻そう。
「正確にいうと、サキさんの端末ではあるのですが、それは貴方の端末では無いんです。確かに貴方の端末は事故で表示出来ません。しかし、それはアバターであるサキさんの端末とは別物なのです」
ここからは、ややこしい話だから丁寧に話し始める。
「というか、アバター自体には端末が標準でインストールされていません。アバター自体はログアウトする必要が無いし管理センターやメンテナンスの管理AIが二十四時間リモートで監視しているからです」
プレイヤーさん本人と仮想空間上のアバターが別物であるという事を丁寧に説明する。ここ大事だものね。
「サキさんはそのアバターにログインしているという事です。だから、アバターにサキさんのパーソナル情報をコピーした上で、僕が持っているこの仮装端末を共有インストールすれば、アバターのログアウトと同期してサキさんも現実世界に帰れるのです」
プレイヤーさんがログアウトするのでは無くて、アバターをログアウトさせるイメージなんだけど、説明難しいかなあ。
「ただし、この方法の場合には1つだけ難点があります。先程僕がサラリと言いましたが。サキさんの個人情報をアバターにコピーする必要があるのです」
個人情報をコピーすることで生じるリスクをキチンと説明する。
「その場合、サキさんの今までの経験や感情全てが管理センターで見る事が出来るようになります。更にもう一つ、仮装端末を共有するこの僕も貴方の情報が見えてしまうのです」
この部分は大事なんだ、個人情報が筒抜けになっちゃうということだから。
「もちろん、業務上に知り得た事は絶対に口外しませんし、もしもそのような事をしたら重大な罰則規定があります。しかし、自分の秘密を他人に知られるのは物凄いストレスになるので、通常はオススメしませんし、普通のプレイヤーさんはこちらを選びません」
だから、あえて二つ目と言ったわけだ。そして、もう一つの方法は……
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