第32話 やっと帰れますね
「改めて挨拶させてください。こんにちはサキさん、よろしくお願いいたします。僕の名前は、ジローといいます。今から私があなたを安全に元の世界に帰れるようにいたします」
初めてサキさんに会ったフリをして接する。
「先ず、あなたの精神的な状況に関して改めて確認させてください。あなた専用の仮想端末が表示できない状況なので、私の仮想端末を経由した形であなたの状態を確認させてください」
先ずは当たり障りのない会話から始める。
ぴょーん。
僕の仮想端末を開く。
通常であれば、ここに表示されるのは僕のゲーム世界のHPやMPなのだけど、ここでシステムコマンドを打つと、運用管理センターの端末に直接接続する事が出来る。サキさんに見えないようにして、システムコマンド『connect operation center 』を実行する。
僕は、運用管理センターやH/W管理センターと直接連絡出来る特殊なヘッドセットを付けているので、仮想端末を一時的に他人に切り替える事が出来るんだ。
「マサさん、今から僕の仮想端末をログアウト出来ないプレイヤーさんに貸し出します。端末移譲の許可をお願いいたします」
システムコマンド実行の結果として、管理センター側に端末移譲の許可を求める承認メッセージが表示されているはずだ。
個人情報の全てが見える仮想端末は、基本的にその人個人にしか使用できないようにロックされている。だから、仮想端末を他人に貸し出すためには、運用管理センター側の承認が絶対に必要になるんだよね。
「オッケー、ジローちゃん。こちらで承認処理を行ったから、いつでも端末を貸し出せるよ」
マサさんから許可が下りた旨の連絡が来たので、僕の端末画面には『enter temporary your number』の画面が表示されている。
これで、サキさんのIDで入りなおせば一時的に僕の端末は彼女の端末として使用可能になる。ただし、彼女がその気になれば僕の個人情報が筒抜けになるので、管理センター側で端末の使用状況を絶えずチェックする必要があるんだけどね。
「それでは、サキさん。この端末にあなたのIDを打ち込んでください。それで、一時的にこの端末はあなたの端末として使用できます。ただし、ログアウトだけは出来ませんのであらかじめご了承下さい」
僕は定型的な文言をサキさんに伝える。冷静に、冷静に、自分に言い聞かせるように。
「この端末は一時的にサキさんが使用する事になりますが、本来の所有者は私ジローですので、ここでのログアウトは、私のログアウトと同じ意味になってしまうのです」
一番大事な、この端末でログアウト出来ないことを最初に伝えないとね。端末が出てくると、興奮しているプレイヤーさんは直ぐにログアウトしようとするんだもん。まあ、サキさんなら大丈夫だと思うけどね。
「健康状態が確認出来たら、ログアウトする方法に関して、ご説明いたしますので、先ずは、健康状態をご自身でご確認下さい」
そのように説明してから、僕は自分の仮想端末をサキさんに差し出した。
サキさんは、少し不安そうな顔をしながら、僕の端末に自分のIDを打ち込み、その後に表示されるパスフレーズを入力していた。
ピン!
どうやらシステムに正しく認識されて、自分の端末が表示されているようで、かなり安心しているようだ……良かったね。
サキさんは、少し端末を見た後で、こちらを振り返って答えた。
「ありがとうございます。私のアバターの状態を確認できました。とりあえず、体力は少し落ちていますがまだまだ大丈夫な状態でした」
少し頬に赤みが戻って来たかな? 納得してくれたみたいだ。
「それで、私はどうやってログアウトしたら良いのでしょうか?」
他人の端末を経由して、自分の端末画面を見て安心したらしい。ここまで行けば大丈夫だろう。やっと強制ログアウトの種類とリスクに関して説明出来そうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます